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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第一章 ルーンカレッジ編
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008 ミアセラとの再会

 初めての授業の後――


「はぁ~、疲れたー」


 メリッサが自分の布団に倒れこむ。レニは寝っ転がりこそしなかったが、ベッドの端に座りぐったりとしている。


「疲れたよねぇ。精神を集中させる練習をあんなにやるんだもん。どれくらいやってたのかな?」


「ちょっと待って。いま時計出すから」


 メリッサがポケットから時計を出した。


「6時間よ~。途中でちょっと休憩はあったけどさ。長すぎよ」


 もう何もしたくないテイで、メリッサは相変わらずうつ伏せに横たわっている。レニも我慢できなくなり、ベッドに身体を横たえた。


 ――30分ほどたっただろうか。ようやく2人は身体を起こした。


「結局まだ呪文の詠唱体勢にも入れなかったね。できるようになったとしても、それを一瞬でできるようにならないといけないんでしょ? 道は遠いなぁ~」


 やや投げやりな様子でレニがため息をつきながら言った。


「ライトの魔法を何とか使えるようになるまで、平均で3ヶ月くらいだったかしら。それも長い時間かかっても何とかってレベルで」


 メリッサはなかなかに物知りである。モング-から数少ない魔術師候補としてカレッジに来ただけのことはある。


「そんなにかかるんだね。私はいつだろう」


「レニは昨日指導生の先輩に教えてもらったんでしょ? 優しい先輩じゃん。早く上手くなれるんじゃないの?」


「そうだと良いんだけど。ジル先輩は凄い人なんだけど、私の方がなぁ。メリッサの指導生はどんな人?」


「私は初日にちょっと会っただけなの。まだあんまり話もしてないんだー。このままじゃなんかやばそうだから、明日会ってもらえるようにお願いに行かないと」


 と、いいつつ疲れた身体を動かすのはなかなか大変らしい。


「レニはジル先輩だっけ? に朝に教えてもらってるのよね? この前私が起きるよりかなり早く起きてたし偉いわ」


「そうなの。カレッジの授業は夕方まであるから、週末を除けば、教えてもらえる時間は朝くらいになっちゃうんだよね」


「じゃあ私も明日早く起きて先輩に教えてもらおう。今から先輩のところに行ってくるね」


 部屋から出て行くメリッサを見送った後、人目もなくなったのでレニはまたベッドに倒れこんだ。


(初日からこんなに疲れるものかしら? 先輩も最初はこんなだったんだろうか。そんなわけないよね。だってジル先輩は最初から魔法が使えたんだから……)


 考え事をしている間に、レニはいつしか寝息を立てていた。


**


 翌日、レニはまた早朝にジルに指導してもらうことになっていた。今日はメリッサも指導生に教えを請うことになっていて、一緒に宿舎を出てきたののである


「メリッサもこの公園なの?」


 メリッサの行き先も確かめず、レニはジルと待ち合わせている公園まで来てしまった。


「そうなの。レニもここだったのか。ごめんね、違う所の方が良かったよね?」


 申し訳無さそうにいうメリッサに、レニは慌てた。


「あっ、そんなことないよ。ほんとに――あっ、ジル先輩、おはようございます!」


 レニは途中まで言いかけたところで、ジルがこちらに歩いてくるのを見つけたのである。


「おはよう。随分早いんだな。まだ約束の30分前だけど」


 ジルは今日も爽やかな笑顔をたたえている。


「そちらの女の子はレニの友達かな?」


「はっ、はい。ルームメイトのメリッサです」


 レニは慌てて自分のルームメイトを紹介する。


「おはようございます、メリッサです。レニの指導生の方にお会いできて光栄です。えーと、間違いなら失礼かもしれませんが、それほど歳上ではないですよね?」


 これでかなりの歳上だったら確かに失礼な話に違いない。


「君は新入生だろうから13歳かな? 僕は14だから1つ歳上なだけだと思うよ」


 ジルは苦笑しながら答える。


「えぇえええー、それで指導生なんですか? 14歳でもう初級じゃないんですよね?」


「へへん、先輩はルーンカレッジ始まって以来の天才と言われているのよ。初級クラスなんて1年で進級しちゃったんだから」

 

 レニが得意げにツンとして言う。


「こらこら、何を自慢しているんだ」


 ジルがレニをたしなめる。レニは舌を出して反省する素振りをする。二人の関係もだいぶ打ち解けてきたようだ。


「メリッサ、レニとぜひ仲良くしてあげてくれ。何か魔法で分からないことがあれば、僕に聞きに来てくれても構わない。ところで、メリッサはモングーに何かゆかりがあるのか?」


「なんでお分かりになったんですか?」


 メリッサは言い当てられて驚いているようだ。この辺りで「君はモングーの出身か?」と聞いて、まず当たることはないのだ。何か根拠があってのことだろう。


「君が髪に挿している髪飾りだよ。この辺にはない独特のデザインだ。それは確かモングーの伝統文化にある工芸品なはずだ」


「モングーについて、お詳しいんですね! そうです、これはモングーの伝統文化で、未婚の女性が身に付ける髪飾りなんです。モングーに行かれたことがあるんですか?」


「いや、まさか」


 ジルは笑って言った。この辺りの人間にとってモングーとは遥かに遠い東方に位置する場所である。行き来しているのは商人くらいのものだろう。モングーやキタイの物産は珍しいものが多く、東西を結ぶ交易は大きな利益を生む。


「ただモングーには非常に興味があってね。僕にとってモングーは現実に存在する神秘のようなものだ。カレッジに入ってから、図書館でモングーに関する本を探して読んで、モングーの伝統文化についてもかなり詳しくなったんだ。ただカレッジの図書館は大陸で最高の図書館だけど、モングーに関する書籍に限ると必ずしもそうじゃないかもしれない」


 モングーに関しては、領土を接しているバルダニア王国が最も詳しい知識を持っているだろう。だが、残念ながらジルはバルダニアに行ったことはなかった。


「よろしければ私がいろいろと教えてあげますよ! 私はこれでも七氏族の一つ、ジュセン族の長の娘なんです」


「七氏族というと部族会議の七氏族だね? それは凄い。メリッサは名門の出なのか」


 メリッサは照れながら、頭をかいている。レニとは違って、メリッサは素直に自分の高貴な生まれを誇っているらしい。それはそれで嫌味がない。


 ジルはふと懐の時計を見る。随分時間が過ぎてしまったようだ。


「おっといけない、レニの魔法の練習の時間がなくなってしまうね。早速訓練を始めるとしようか。今日はメリッサも一緒に訓練するか?」


「いえ、残念ながら私は私でお姉さま……、いえ指導生とお会いする予定になっていますので」


「そうか、レニと一緒に僕のところへ来たわけじゃなかったんだね」


 ジルがそう言うと、後ろの木陰から姿を見せる女性がいた。


「彼女は私が面倒をみている新入生なのですよ」


 ジルが驚き、その声の主を探して振り返る。


 そこに居たのは上級クラスのミアセラであった。


「ミアセラさん!!」


「久しぶりですね、ジル」


 ジルが眩しそうにミアセラを見つめる。彼女と会うのはセードルフとの決闘の日以来である。


 ミアセラは女性としては長身で、まだ14のジルよりも幾分か背が高い。美しい印象的な金髪を後ろでポニーテールにまとめ、大きく胸元の空いたドレスを着こなしている。


「そうか、メリッサはミアセラさんの指導する学生だったんですね。レニとはもう会っていますよね?」


 レニがミアセラに挨拶をする。


「ジル先輩の決闘の日にお会いしたレニ=クリストバインです」


「ああ、あの時の!」


 ミアセラが両手を叩いて、思い出したというゼスチャーをする。


「レニ、まだちゃんと紹介してなかったと思うけど、上級クラスのミアセラさんだ。上級クラスで最も優れた人だ。バルダニアの侯爵家の御令嬢でもある」


 バルダニアは、シュバルツバルトと並ぶ二つの王国のうちの一つである。両国は元々神聖グラン帝国から独立を果たした際には一つの国家であった。しかし教会勢力の対立によって二つに分裂せざるを得なくなり、現在の両国に分離したのであった。


 信仰上の対立が根深いこともあって、バルダニアもシュバルツバルトも、帝国に対するよりもむしろ、互いとの関係の方が良くない。レニの父、レムオン=クリストバインが活躍したのは、主にこのバルダニア王国との戦争である。


 レニとミアセラは敵同士の関係と言えなくもないが、これは自由都市フリギアでそう珍しい話ではない。


 フリギアは、帝国、バルダニア王国、シュバルツバルト王国の3国と国境を接し、その緩衝かんしょう地帯になっており、これら3国の合意の下で自治権を得ている。したがってフリギアの内部においては、3国の関係者をはじめとして、国際的な対立関係を持ち込むことが暗黙あんもくの内に禁じられている。


 そして世界各地から学生の集まるルーンカレッジにも、当然各国から人材が集まるのであるから、このようなことは当然ありうることなのである。


「私はミアセラ=ルースコートと言います。ジルとは良き友人なの。カレッジの外での話はここでは無しにして、私たちもお友達になりましょう」


 歳上らしい余裕のある態度といえるが、もともとミアセラは争いを好まない穏やかな性格なのだ。ジルはその事をよく分かっている。ロクサーヌに対するのとはまた違った方向で、ジルはミアセラに好意を持っていた。

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