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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第三章 対帝国編
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085 反乱の決行

 その日、帝国軍第二方面軍司令官ガイスハルトは、朝から街の不穏な空気に関する報告を部下から受けていた。


「いつも以上に人通りが少ないというのだな?」


「はっ。少ないというよりも、ほとんどいないと言った方が宜しいかと。いたとしても身を寄せあって何やら話をしている様子です」


 帝国がフリギアを統治する事になって以来、通りを歩く市民の数は大きく減っていた。だが市民にも生活がある以上、商売や買い物など、最低限の人通りはあったのだ。それが今日に限ってほとんど通りを歩く人間がいないということである。


「ふむ、来るものが来たということかな?」


 ガイスハルトは事前にフリギアで反乱が起こる可能性について報告を受けていた。彼が市民の中に忍ばせていた部下から、イシス教会が反帝国の主張を振りまいていると知らせがあった。彼は教会を弾圧しようとも考えたが、宗教の扱いは難しい。市民の心のり所を弾圧すれば、余計に刺激することになりかねない。それでつい先日、しばらく様子を見ようと決めた矢先のことだった。


 ドゥガァアアアアアンッ!


 突然ガイスハルトがいる市庁舎が爆音とともに大きく揺れた。


「何事だっ!」


 ガイスハルトの問いに、注進の部下が駆け込んでくる。


「も、申し上げます!! 市民の反乱がおきました! 奴らの標的はこの市庁舎です。現在攻撃を受け交戦中です!」


 ガイスハルトはその報告を受けながら、早速鎧に身を固めていた。


「ふむ、わしの首を狙ってきたか。常道だな」


 武人であるガイスハルトは、常に命を危険に晒してきた。戦はいっそ彼にとって人生のようなものだった。ガイスハルトはニヤリと口元に笑みを浮かべると、執務室から出て行った。


**


 フリギアは燃えていた。朝からレジスタンスが蜂起し、街の至る所で炎が上がっていた。傍観していた市民の中にも、騒ぎの中で新たに反乱に加わる者がでて来て、反乱の総数は分からない状態であった。


 市庁舎を攻撃する部隊の指揮官となったジルは、3000のレジスタンスのうち、500人を率いて市庁舎を攻撃していた。本来の標的である南側城門には2500のレジスタンスが回っている。ジルたちは少ない人数で派手に攻撃することで、敵の目を市庁舎方面に釘付けにしなければならなかった。


 ジルは500人とともに市庁舎を遠目に見た。さすがにフリギア占領軍の司令官が座す場所であるだけに、警備は厳重であった。恐らく事前にある程度反乱の予兆のようなものが伝わっていたのだろう。いつもより市庁舎を守る軍が増え、すでに500人ほどの軍が集まっていた。


 教会が一般市民に宣伝をすれば、その過程で情報が帝国側に伝わることを防ぐのは難しい。だからこそ、反乱の決行を急いだのだ。だが、敵が市庁舎の防衛に兵を割いているのは好都合でもある。ジルは敵を見てほくそ笑んだ。せいぜい派手に攻撃して、敵を引きつけなければならない。


「メルキオール・イシュリーダ・バルトリート・ヘリクス ジス・オルムード・ウルス・ラクサ エシュト・アルス・ウント・レルムス 火の精霊よ集まりきたれ 我ここに汝が枷を解き放ち 破壊の力となさん」


 ジルは火力を最大限に引き上げたファイアーボールを唱えた。詠唱とともにジルの頭上に巨大な火球が3つ出現する。ファイアーボールを初めて目にするレジスタンスたちは、その破壊の象徴見てゴクリと息を飲んだ。


 ジルは市庁舎を指差すと、火球がその方向へと放たれる。


 ドゥガァアアアアアンッ!


 爆音とともにファイアーボールが炸裂した。市庁舎には抗魔処理が施されているので、建物自体にそれほどダメージはないだろうが、市庁舎の前に陣取った帝国軍兵士の数十人が炎に包まれた。


「なるほど、さすがに上級魔術師でいらっしゃいますな」


 ジルの後ろに控えていた司祭がそうつぶやいた。ジルの部隊にはイシス教会から癒し手として、一人の司祭が派遣されていた。


「いえ、勝負はこれからです。敵はこれでかなりの人数の兵を市庁舎に回してくるでしょう。ですが我々の目的はガイスハルトを殺すことではありません。城門攻略の部隊が楽にするためにも、我々はここで時間を稼がねばなりません」


 ジルは一声レジスタンスに大きな掛け声をすると、それに従い仲間たちが帝国軍に突撃していった。


**


 クリフとガストンは2500の人数を率いて、フリギアの南門に向かっていた。市庁舎にいるガイスハルトのもとに、彼らが城門を狙っている情報が届くのを遅らせる必要がある。それゆえ、彼らはなるべく音を立てず静かに移動していた。だが、街には帝国の衛兵が配置されており、全くの交戦もなしに城門へはたどり着けない。反乱軍は途中10人程度の衛兵の集団を幾つか血祭りにあげながら突き進んだ。そして彼らの視界に南門が見えてきた。


「見えたぞ!」


 反乱軍の先頭に立つガストンが、後ろを振り返って大声で知らせた。隊列の中ほどにいたクリフが急いで先頭までやってくる。


「どうだ、敵兵の数は!?」


 クリフは聞くまでもなく、自分の目でそれを目にしていた。


「およそ1000といったところだな。通常どおりといったところか……」


 横でガストンが頷いた。ここまでは計画は上手くいっている。帝国の占領以降、南北の城門にはそれぞれ1000人程度の兵が城門の横や城壁上に配されていた。この先この数は、彼らが殺すことで減っていくが、増援が来て増えることも十分にあり得る。それはジルがいかに市庁舎に敵を引きつけられるかにかかっているだろう。


 だが1000の敵兵とて、決して彼らにとって楽観視できる数ではない。帝国軍は重装備の正規兵なのに対し、反乱軍は簡単な武器や防具を配られただけの素人なのだ。騒動によって市民のなかに新たな反乱軍に加わる者が出て、すでに人数では3000人を超えているが、三倍の人数がいたとて簡単に勝てる見込みはないのだ。


「だが我々には確固とした目的がある! フリギアに自由を取り戻すという目的がな!」


 クリフは士気を鼓舞するように、右手を高く突き上げて怒鳴った。


「おお!!」


 幸い反乱軍の士気は高い。


「突撃!!」


 クリフの采配に従って、反乱軍はその大軍を見て驚く帝国兵に突撃していった。

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