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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第三章 対帝国編
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084 反乱前夜

 再度フリギアに戻ったジルは、シュバルツバルト王国の意向をクリフやガストンに伝えた。彼らが出した条件の通り、帝国からの防衛を名目に、一定期間シュバルツバルト軍が駐留し統治すること、その統治には第二方面軍のアムネシアが当たること、そう遠くない時期にフリギアの自治を回復させることなど、である。


「第二方面軍というと、いまジルがいる軍だよな? とするとお前もまたフリギアに戻って来るということか?」


 ガストンが喜色を表しながら聞いた。


「そうなるだろうな。第二方面軍はフリギアの攻略に当たり、そのまま駐留することになるだろう」


 ジルはそう答えつつ、ガストンほど無邪気に喜んではいなかった。彼らにしてみれば、確かに旧知のジルが居てくれた方が安心できるだろう。だがジルとしては、職務でフリギアの統治に関わることになるので、ガストンたちとは統治者と住民という関係になる。立場上難しいことも出てくるだろう。


「貴国のご好意に感謝する。これでフリギア解放の目処もたつというものだ」


 クリフがレジスタンスの長として謝意を表した。ジルは王宮での会話を全て話したわけではない。フリギアを王国に併合すべきではないかという議論が出たことなどは、当然話せるものではなかった。


「それでイシス教の力を借りるっていうのはどうだった?」


「上手くいった。聖女シーリスに会って協力を要請し、フリギアの教会に書状を書いていただいた」


「おお、お前聖女と会ったのかよ。すげーな!」


 相変わらずなガストンの口調に、ジルは苦笑した。聖女シーリスは信者にとっては神に等しく、そうでない者にとっては神々しい美しさで知られている。無論ガストンは後者で、野次馬的な関心を持っているだけだ。


「ここへ来る前に、すでに教会に立ち寄ってきました。聖女様の力添えもあって、快く協力してくれるとのことです。すでに信者を始めとして帝国に抵抗するよう説いてくれています。実際に反乱が起きた時には、神聖魔法の使い手としても協力してくれるでしょう」


「おお、それは凄い! ジル君本当にありがとう……」


 クリフは心からジルに感謝していた。クリフの肩にはレジスタンスの長として重責がのしかかっている。仮に失敗すれば多くの人間を死なせることになるのだ。何としても成功させなければならない状況で、シュバルツバルトや教会の支援はまさに天の助けのようなものだった。


**


 教会による宣伝活動は上手くいっていた。教会は礼拝や聖職者の説法などで、多くの人間が集まる場所であり、人々が敬意を抱く存在でもある。信者に対しては当然のこと、教会は布教活動と称して信者以外にもレジスタンスの活動を広めていた。その結果、レジスタンスに加わる者は約3倍にまで増えたのである。これで反乱に必要な人数は十分に確保することができた。


 ジルはいよいよ本格的な反乱計画の立案にとりかかっていた。毎日のようにクリフやガストンたちと膝を突き合わせて、議論していた。


「当日私は、王国側の人間として反乱軍のお手伝いをします」


 ジルはシュバルツバルト軍に合流するのではなく、この反乱計画を進めてきた王国側の中心人物として、フリギア内部でレジスタンスを支援することになっていた。


「レジスタンスの監視役ということだね?」


 クリフがやや皮肉がかった口調でそう言った。


「それは否定しません。この反乱の成否は、王国の一軍の生命をも左右するものです。たとえ私でないとしても、誰かが派遣されることになるでしょう」


「それなら、まだしも君に来てくてくれた方が気心が知れて良いということか」


 クリフはジルに対して悪意を抱いているわけではないが、シュバルツバルトに関しては完全に心を許しているわけではない。ジルがレジスタンスの監視役であるとすれば、心良く受け入れるというわけにもいかないのだ。


 当日、反乱軍は二手に分かれ、行政を司る市庁舎と城門の2カ所を攻撃する手はずになっていた。市庁舎への攻撃はおとりであり、真の目標は南側の城門を確保し、シュバルツバルト軍に門を開放することにある。市庁舎はフリギアの守備を預かるガイスハルト将軍の司令室が置かれている場所であり、司令官を討つという名目は帝国軍に真の標的を悟らせない隠れ蓑であった。


「市庁舎の攻撃は囮ですが、少数で敵を引き付けるために派手に攻撃しなければなりません。こちらは私が引き受けます。当日は必要以上に派手な攻撃魔法を使うようにします」


 ジルは市庁舎への攻撃を買って出た。敵の大将が位置する場所であるため、最も危険な配置であると言って良い。


「クリフさんとガストンたちは南側の城門を確保し、壁外に寄せたシュバルツバルト軍に城門を開いて下さい。シュバルツバルト軍はぎりぎりまで帝国軍に進攻を悟らせないようにしています。この作戦の成否は、一に城門の確保にあります。何としても成功させてください」


「それは必ずや成功させてみせよう。だが、城門を開いたとして帝国に勝てるだろうか……」


 クリフはジルに弱気な内心を吐露した。同じく重責を担う者同士、部下には聞かせられないことだ。


「フリギア攻略の任に当たる第二方面軍は約1万です。それに加え、反乱軍の兵力が約3000います。もともとガイスハルトの軍は約一万おりましたが、最近兵力を5000に減らしています。成功するに十分な兵力を確保できているはずです」


 ジルは詳細な数を挙げてクリフを励ました。城門側の総責任者はクリフである。そのクリフの心理状態が作戦の成功確立を左右するとすれば、いくらケアしてもケアし過ぎることはないだろう。


 ジルが言ったように、帝国は不可解なことに最近になって半分の兵をフリギアから引き上げている。長引く占領で食料が不足しているのではないか、と一応王国側は見ていたが、真相は不明である。それがジルにとっては不気味でもあったが、責任者がこの期に及んで弱気を見せるわけにはいかない。ここに至っては計画通りに進めるしかないのだ。


「それでは私はこれで下がらせてもらおう。明日は長い一日になるはずだからな」


 クリフはそう言い残して自室に引き上げた。明日の大事を前に、ジルとガストンを二人きりにしてやろうという配慮なのだろう。


 クリフが去った後、二人は珍しいことに酒を酌み交わしていた。ガストンはともかくとして、これまでジルがまだ若過ぎたことから酒を飲むことは無かった。だが、ジルが16歳になっていたこと、そしてなにより極度の緊張を紛らわすために酒の力が必要だったのである。


「まさかこんな日が来るとは、ルーンカレッジにいた頃は思いもしなかったぜ」


 ガストンも珍しく感傷的になっていた。思えば学生だった頃は、身分や立場、信条などを気にせずに生き、友と付き合うことができた。しかし今となっては、親友であったジルとガストンですら、互いに立場の違いを意識せずにはいられなかった。


「何にしても、まずは明日の作戦を成功させることだ。全てはそれから始まる」


 ジルがガストンにそう返した。反乱が失敗すれば、それはほぼ死を意味する。


「そうだな、なんとか成功させて生き延びないとな……」


 ジルとガストンは互いのグラスにワインを注ぎ、黙ってボトルを一本空にするまで飲み続けた。

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