表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第三章 対帝国編
82/144

081 フリギア反乱計画

「それでレジスタンスの方はどうですか? 帝国に抵抗する目処は?」


 ジルは、ガストンたちがフリギアで反乱を起こすのを支援する役目を負っている。まずは現状を確認する必要があるのだ。


「現在我々は仲間を集めているが、まだ数が少ないのが問題だ。帝国に対して反感は持っていても、命をかけて反乱を起こそうという人間は少ないのだよ、残念ながらな」


 クリフは厳しい表情で現状を分析した。ここで言葉を飾っても意味が無い。所詮軍事的な勝利を勝ち取るために、数は力なのだ。


「数という面では、シュバルツバルトが力をお貸しできるはずです。レジスタンスがフリギア内部で反乱を起こすのと同時に、我が国が外から攻撃します。フリギアを守備する帝国の第二軍団を、内外から攻めれば勝機はあるはずです」


「ふむ、それは心強い……。だが、都市の中ではシュバルツバルトの力は借りられまい。反乱を起こすにしても、まだ数が少なすぎることに変わりはないな」


 クリフとガストンが沈んだ顔つきになっていた。彼らは努力してフリギアの人々との会合を開き、レジスタンスへの参加を訴えていたが、それでも数が少なかった。


「何か状況を変えるようなきっかけがあれば、流れも変わるんだがな」


「……」


「イシス教団の力を借りるというのはどうですか? フリギアにも信者は少なくないはずです」


 ジルがふと思いついたアイデアを提案した。イシス教はシュバルツバルト、バルダニア両王国を中心に、フリギア、カラン同盟、帝国の一部にも信者を持つ。とくにフリギアでは、信者は決して少なくない。イシス教はシュバルツバルトとバルダニアに大神殿があり、このフリギアにも教会がある。この教会の神官たちに人々を説得してもらえば、大分状況が変わってくるはずだ。


「そんなことが可能なのか? もちろんそれができれば有り難いが」


 クリフはイシス教とこれまで関係を持ってこなかった。個人的に信者ではないし、教会にもほとんど足を運んだことはない。協力を求めると言っても、具体的にどうすれば良いのかクリフには分からなかった。


「一度ロゴスに帰還し、大神殿に協力を求めてみようと思います。帝国の侵攻に対し、教団としても思うところがあるはずです。王国として協力を求めれば不可能ではないと思います」


「では、そちらは君にお願いするとして、次は成功した後のことだな。仮に反乱が成功してフリギアが解放された場合、フリギアとシュバルツバルトの関係はどうなるだろうか?」


 クリフの眼がキラリと光った。反乱が成功したとしても、帝国が王国にそのまま変わっただけでは意味が無い。もともとフリギアの市民は自由を求めて反乱を起こすのだ。戦後の望ましい統治体制について、シュバルツバルトから確約をとっておかなければならない。


「王国の意思について、いま私にはそれを語る資格はありません。ですが、まずあなた方の譲れない線を教えて下さい。話を持ち帰って王に伝えましょう」


「ふむ、そうだな……」


 クリフはしばらくの間考えこんだ。ここはフリギアの権利を守るため、出来るだけ強く出ておきたいところだが、あまり法外な要求をしては、王国との協力関係に水を差す恐れもある。妥協できるラインを引いておく必要があるだろう。


「フリギアとしては、戦後そう遠くない時期に自治を回復したい。我々フリギアの人間にとって、自由都市としての性格は何よりも貴いものなのだ。だが、戦後すぐの段階では、フリギアを帝国から守るためにシュバルツバルト軍の駐留が必要になるだろう。だから一定時期までの王国の支配と軍の駐留は受け入れよう」


「一定時期というのは、どれくらいの時間を想定されていますか?」


 ここは両国の交渉の上で重要なところだ。仮にシュバルツバルトがフリギアの支配を目論むとすれば、一定時期というのは100年を意味するのだ、と強弁することもできるのだ。


「そうだな、帝国との戦いの状況次第だから何とも言えないところだな。我々としても、帝国と戦いが続いている中で、急に放り出されても困る」


 クリフは苦渋の表情を浮かべた。できるだけ早く自由を取り戻したいところだが、また帝国に占領されるようなことがあっては目も当てられない。


「ジル、今から戦いがいつ終わるかなんて分からないだろ。ここでいい加減に期限を決めて守れなくなったら、シュバルツバルトとフリギアの関係が悪くなる。それはどっちも望まないんじゃないか?」

ガストンが横合いからそう言った。


「確かに……」


「どうだろう、勝利した後のことは、互いの信義に基づいて柔軟に交渉し再度決めるというのは?」


「それが妥当なところでしょうね。私も王宮に戻ったら、その線で提案してみます」


 クリフの言葉にジルがそう応じた。


「シュバルツバルト軍の駐留に関しては、防衛協力の名目で貴国に税を支払っても良い。そしてフリギアは大陸全土にシュバルツバルトへの支持を表明する。これは必ずや貴国の正当性を強化することになるはずだ。その代わり、必ずや一定の期間を経た後には、フリギアの自治を認めると約束して欲しい」


 ジルはクリフの言うことを聞きつつ、その要求が妥当なものだと感じた。シュバルツバルトとしても慈善で支援するわけではない。何かしら自国の利益を得たいと思うのが当然である。対帝国戦線において、フリギアの支持は大きな助けとなるに違いない。


「要求は承りました。他には何かありませんか?」


「ついでに言わせてもらえば、フリギアの統治は柔軟な人物にお願いしたいところだな。ガイスハルトのような猪武者は御免被りたいものだ」


 柔軟な人間とは誰だろうか、ジルは考えていた。この作戦は第二方面軍が進めており、そのまま第二方面軍がフリギアの統治を担当するというのが自然な流れだろう。だとすれば、アムネシアになるかもしれない。


「分かりました。いま伺った条件を一度持ち帰って王宮へと伝えましょう。イシス教団へも私の方から話をしておきます」


「頼むぞ! ジル君、シュバルツバルトと我々との間で板挟みになって辛いこともあるだろうが、頑張って欲しい」


「言っておくが、何があっても俺たちの友情の変わりはないからな!」


 ジルはクリフ、アナスタシア、ガストンの3人と交互に握手した。シュバルツバルトとフリギアの利害が対立した時、自分はどうすべきだろうか、ガストンたちを見殺しにするような時が来るのだろうか、ジルはガストンの手を握る瞬間にそう考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ