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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第三章 対帝国編
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080 ガストンとの再会

 しばらくすると、クリフがガストンの母アナスタシアをともなって帰ってきた。


「おばさま、お久しぶりです!」


「まぁ! ジル、無事で良かったわ!!」


 アナスタシアは部屋に入るなり、ジルを抱きしめた。つき合ってそんなに長い時間はたっていないが、アナスタシアは息子の友人に対し自分の子どものように接してくれた。遊びに来た時は、いつも彼女の手料理を食べさせてもらったものだ。


「さあ、感激の再会もその辺りにしたらどうだ? 話すことが色々あるのだろ?」


 クリフにうながされ、アナスタシアはようやくジルを離した。クリフはジルに席につくよう促すと、レジスタンス活動について語り始めた。


「君のいう交易商人のロンバルトというのはな……実は私のことなのだ」


 クリフの告白にジルは大きく眼を見開いた。今回ロンバルトという男は、レジスタンスの長として会うべき最重要人物と考えていたのだ。


「そうだったのですか……。なぜロンバルトという名前を?」


「こんな危険な活動、実名じゃ危なくてやっておれんよ」


 クリフは苦笑しながらそう答えた。もともとクリフは、魔法のメッカ・フリギアで魔法学校を営んでいることから、街の名士の一人であった。彼以上に著名な者達が帝国の統治下で拘束されたことにより、現状政治的に動ける者のなかで、クリフは一、二を争う名士となっていたのである。


「ロンバルトというのは全くの偽名というわけじゃないんだ。ロンバルトは私の古い友人でね、今回の騒動に巻き込まれて死んだんだよ。彼の名を使うのは、その無念を晴らすためでもあるのさ」


 ロンバルトはクリフが交易商人をしていた時からの友人であり、彼に商売のやり方を教えてくれた恩人でもあった。クリフよりも10は歳上であったが、今でも酒をともに飲む関係だった。しかし帝国が侵攻してきたあの日、街が大混乱に陥るなかで人混みに倒され、踏みつけられて亡くなったという。


「ガストンがレジスタンスに関わっていたのは、おじさんが運動の中心だったからなんですね?」


「息子の性格に合わないと思うだろ? だが意外にもこういうことが息子には合ってるようなんだ」


 クリフは息子を誇らしげに語った。危険だから関わらなせないようにするわけではなく、むしろ積極的にガストンを参加させているらしい。


「ガストンっていつもふざけているように見えるでしょう? でもね、そのせいもあって顔が広く、人をまとめるのに向いているみたいなの」


 勉強はできないけれどね、とアナスタシアが忍び笑いをもらした。それは決して親の贔屓目だけではないとジルは思っていた。以前から、ガストンには人を惹きつける人望があると感じていたのだ。


「初めは主人がレジスタンスの中心になっていたのだけど、危険だからとガストンが代りに会合に出るようになって、あの子が実質的に場を取り仕切るようになってきたの。あの子にはこんな才能があったのね」


 アナスタシアが目を細めた。以前遊びに来た時は、いつもジルを持ち上げ、ガストンの不甲斐なさを強調したものだが、それもすっかり変わったらしい。現在はクリフが組織の長として交渉や作戦の立案のまとめ役となり、ガストンが現場のリーダーとなっているようだ。


「それで、いまガストンはどうしているんですか?」


「ちょうどその会合に出席しているところさ。もうすぐ帰ってくるころだと思うが」


 ガストンが帰ってくる間、ジルはフリギアの現状について、クリフたちから改めて聞くことにした。


「帝国に占領されてから、魔法塾はどうなんですか?」


「酷いものだよ。魔法塾の生徒は働いている人間が多く、街の外から来る生徒も多いんだ。だが、帝国が占領したせいで塾に通う余裕のある者はいなくなり、街も封鎖されてしまって生徒は誰も来なくなってしまった。うちは開店休業中状態ってやつさ」


「それはお辛いですね……」


 ジルは一応貴族だから金に困ったことはない。だからクリフやアナスタシアの気持ちを真の意味で理解することはできないだろう。帝国のせいで生活が脅かされている、それも彼らがレジスタンスをしている理由の一つなのではないか。


 バタンっ! 遠くで玄関が閉まる音がした。誰かが魔法塾に入って来たらしい。


「おっ、ガストンが帰ってきたようだ。ジル君、上まで一緒に迎えに行こう」


 ジルはクリフの言うことをみなまで聞いていなかった。一階の階段を勢い良く駆け上がる。一階には……、帰ってきたばかりのガストンがそこに居た。


「ガストンっ!!」


「ジ、ジルか!? どうしてお前が……」


 二人はしばし顔を見合わせた後、どちらともなく走りより力強く抱き合った。


「よく無事だったな、ガストン」


「お前こそ、こんなところまで来やがって!」


 ジルとガストンは互いに笑みを浮かべると、拳を軽くコツンと合わせた。


「うちの親とはもう会ったんだろ?」


「ああ、もうここへ上がって来てるはずだが……」


 クリフとアナスタシアは二人の再会を邪魔しないよう、気を利かせて下で待っていた。ガストンを入れ、地下室に4人が集まった。


「改めてお話しますが、僕はいまシュバルツバルト王国の上級魔術師であり、フリギアのレジスタンス活動を支援するという命を受けました。それで今日、レジスタンスの中心になってるというガストンに会いに来たんです」


「おいおい、お前上級魔術師になったのかよ!? 仕官したんだろうなとは思っていたが……、上手いことやりやがって!」


 驚いたガストンがジルを茶化す。ジルはガストンとの他愛のないやり取りを懐かしく感じた。かつてルーンカレッジの学生だった頃、ガストンと何度となく交わした会話だ。


「我々の活動をシュバルツバルトが支援すると? それは国家としてということかね?」


 クリフの表情が厳しいものに変わった。経営者であり、いまはレジスタンスの長であるその一面を垣間見せた。


「ええ、そうとっていただいて構いません。私の任務は、正式に王国から発せられたものです」


「それは、あくまでシュバルツバルトの利益から支援するということだね? 帝国を混乱させるという」


 ジルに対して話していても、クリフはジルの向こう側に王国上層部の意向を見出した。


「それは否定はしません。シュバルツバルトは帝国を弱体化させるという目的のため、あなた方レジスタンスはフリギアの解放にシュバルツバルトの支援を受けるというメリットがあります。双方の利害が一致すれば、進んで協力出来るはずです」


「それはジルの意思でもあるのか?」


 隣に座ったガストンも、カレッジでは見せたことの無い真面目な表情になっている。


「俺としてはシュバルツバルトの命を受けた上で、ガストンたちに協力し、思い出深いこのフリギアに自由を取り戻したいと思っている」


「そうか。そのジルの意思は俺も信じよう」


 疑おうと思えば、シュバルツバルトの国家的な利益を優先し、フリギアを利用としているとも受け取れる。だが、ガストンはカレッジでともに過ごした2年間から、ジルが信義にもとることはしないという確信があった。


「では、これからお互いに協力するという前提で、細部を詰めていきましょう」


 アナスタシアの言葉で、4人は来るべきフリギアでの反乱計画について話し合うことにした。

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