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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第二章 動乱の始まり編
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067 ジルフォニア=アンブローズ、宮廷魔術師になる

 午前8時、ジルたちは王都ロゴスに帰還した。アクシデントに見まわれながらエルンスト=シュライヒャーを保護し、無事連れ帰ることができた。任務は完全なる成功であった。


 王宮の門をくぐると、王宮内が何かで湧いているようだった。まさか自分たちの任務が成功したせいでもあるまいが、とゼノビアは疑問に思い衛兵に聞いてみた。


「レムオン様がシュライヒャー領の占領に成功されたのですよ! 先ほどその報が届いたので、王宮中が湧いているところです」


「そうか!! それは朗報だな」


 ゼノビアも笑顔になった。シュライヒャー領の併合が失敗し多くの死傷者を出したなら、自分たちだけが成功しても素直に喜ぶことはできないだろう。作戦上の是非はともかくとして、とりあえず成功してなによりだ、ゼノビアはそう安堵した。


 王宮に入ると、すぐに出迎えの侍臣が待っていた。


「ゼノビア殿! こたびは任務の成功お喜びいたします。レムオン殿の成功といい、今日はシュバルツバルトにとって良いことばかりですな」


 侍臣はゼノビアたちに満面の笑みを向けると、謁見の間まで案内した。ゼノビアたちは任務の報告をし、エルンストを引き渡さなければならないのだ。


 玉座には王、その傍らには大魔導師ユベールがいた。他に近衛騎士団団長ルーファス、ブライスデイル侯、ヘルマン伯、レント伯クリスティーヌたちもまだ王宮に残っていた。


 ジルとゼノビアは玉座の前まで進み、片膝をついて頭を下げた。エルンスト、バリオスもそれにならう。おそらく帝国でも儀礼はそう変わらないだろう。


おもてをあげよ」


 王が直々に声をかけた。ジルたちは顔を上げ、王を正面から見つめる。


「こたびの任務の成功、真に大義である。よくエルンスト=シュライヒャーを確保し、王都まで連れて来てくれた。エルンストが居なければ、今回の作戦の大部分が不首尾に終わるところだった。良くやってくれた」


 王の言葉を聞き、ジルたちも苦労が報われた気がした。


「ありがたきお言葉。ただエルンスト=シュライヒャーが現場に現れず、帝国の者に捕らえられていたところ、私の判断で戦闘に及び奪い返さざるを得ませんでした。不測の事態とはいえ、独断で行動したことお詫びいたします」


 ゼノビアが戦闘になったことを謝罪する。王や大魔導師がどのように判断するにせよ、これは一応詫わびておかねばならないのだ。


「そのことは、すでに聞き及んでいる。レムオン殿がシュライヒャー領を占領し、すでに帝国とは戦争同然の状況だ。貴公らの行動はなんら両国の関係に影響を与えるものではない。謝罪の必要はない」


 大魔導師ユベールがそう答えた。すでに咎めがないことは分かっていたが、改めてユベールの言葉を聞き、ゼノビアとジルは安堵する。


「それで、エルンスト殿はどちらかな?」


「は、こちらがエルンスト=シュライヒャー殿です」


 ゼノビアは脇に寄り、エルンストが通る場所を空ける。エルンストが前にやってきて、玉座の前で片膝をつく。


「国王陛下、私がエルンスト=シュライヒャーです。此度は寛大にも私の亡命を受け入れていただき、感謝の念に堪えません。これからは陛下に我が忠誠を捧げます」


 エルンストが王に深く頭を下げた。


「ふぉっふぉ。エルンスト、貴公ほどの名将を我が国に迎えることができて、余も嬉しく思っておるぞ」


 王がそうエルンストに声をかけた。これでエルンストはシュバルツバルト王宮に正式に受け入れられたと言って良い。


「それでエルンスト殿、早速だが貴公の知っていることを話してもらいたい。先のアルネラ様の誘拐事件は帝国による陰謀だと言うのは本当か?」


 ユベールがエルンストにたずねた。これは今回の行為の正当性を主張する上でも、非常に大事なところである。


「間違いございません。私の知るところによれば、全て皇帝、大魔導師ザービアック、『黒の手』の隊長ベイロンによる仕業でございます」


 エルンストは自分が調べあげた事実について全て説明した。エルンストの口から改めて事件の真相を聞き、同席した者たちは帝国の悪意に対して敵対心を抱いた。


「貴公はそれを公の場で証言できるか?」


「はっ、この老骨がお役に立つのであれば、喜んで証言いたしましょう」


 おお! と脇から歓声があがった。これで帝国に対しては優位な立場に立つことができるだろう。バルダニアもこれを聞けば、シュバルツバルトにちょっかいを出すことはあるまい、人々はそう思った。


「次に、ジルフォニア=アンブローズ、前へ!」


 ユベールの言葉に、ジルは一歩前へ進み出た。人々の好奇の目がジルに注がれる。


「貴公の今回の働き、実に見事である。ゼノビア殿からも、すでに貴公の働きが勲功第一であると申し出があった」


 ジルは斜め後方にひざまづくゼノビアの方を見た。それに気づいたゼノビアが片目をつぶってみせる。


「先には二度に渡りアルネラ様の命を救ったことも、王国は決して忘れていない。陛下も貴公を大変評価しておられる」


 ユベールの言葉を聞きながら、王は深く頷いた。


「その通りじゃ。我が娘の命のみならず、此度は王国のためによく尽くしてくれた」


 王の言葉にジルは一段と頭を低くする。


「王国はジルフォニア=アンブローズの功に報いるため、貴公を正式に上級魔術師に叙任することにした。これまでは学生の身分であったため叙任は控えていたが、もはやそれも不要である。特例として学生のまま仕えることを許す」


 おおっ、と周囲から感嘆の声が聞こえた。彼らが驚いたのには二つの理由がある。まず、いきなり上級魔術師に叙任されるのが極めて異例なことだからである。長いシュバルツバルトの歴史においても、おそらく例がないのではないか。宮廷魔術師の序列は、下から魔術師、上級魔術師、魔導師、大魔導師となっている。ジルは魔術師を飛ばして上級魔術師に任じられたのである。


 そしてもう一つの理由は、わずか15歳で宮廷魔術師として叙任されたことである。これは帝国の歴史上、最も若い宮廷魔術師の誕生を意味する。まさに初めてづくしのことであった。ジルはやや身を固くして、王に礼を述べる。


「ははっ、ありがたき幸せにございまする。過分なご配慮、感謝いたします。これからは更に全身全霊をかけて、王国にお仕えいたします」


「ふぉっふぉ、よいよい。余もそちのような若く能力のある者を家臣にすることができて幸せである。そうでろう、ユベール?」


「ははは、まことにさようですな陛下」


 ユベールも笑顔を浮かべている。ジルを見つめる目は、借りは返したぞ、と言いたげであった。

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