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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第一章 ルーンカレッジ編
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030 日常への復帰

ようやく30話を迎えることができました。これも応援してくださる皆様のおかげです。今後とも宜しくお願いいたします。

 ジルがカレッジに帰ってきた翌日、ジルとレニは朝の特訓の後、昼休みに喫茶室で待ち合わせをしていた。レニのために時間をとるという約束を果たすためである。


 レニは今日も一日中授業で予定が埋まっていた。唯一休める憩いの時間が、昼食用に設けられた昼休みである。カレッジでは昼休みは長めに1時間半とられている。喫茶室は2人がけと4人がけのテーブルがあるが、すでに4人がけは学生たちで一杯である。2人がともかくも席を確保できたのは、授業の無いジルが早めに来て席を確保していたからである。


 ジルはすでにカレッジの有名人であった。以前から学園始まって以来の天才として知られていたが、今回シュバルツバルト王国の姫を救い、その功績から宮廷魔術師の地位まで授与されている。このことはカレッジの中で知れ渡った事実となっている。だからジルは喫茶室でも周りから注目を集めていた。


 レニは授業が終わってから喫茶室に来た。そして、本を読みながら待っているジルを見つけた。隣の席、奥の席、更にその隣の席の女子学生たちが、ジルに視線を送っている。ふとジルは顔を上げ入り口に立つレニを見つけると、手をあげて合図をする。学生たちの注目が、今度はレニの方へと移る。レニは注目を集めた気恥ずかしさと、ジルを独占できる誇らしさを同時に感じていた。


「やあお疲れさま。午前中の授業はなんだったのかな?」


 ジルは本を閉じて、席についたレニを見つめる。


「呪文詠唱と大陸史です」


「ほう、大陸史か。懐かしいな、僕も勉強したけど歴史の授業は楽しかったな」


「そうですか? 私はちょっと苦手です。昔のことがなかなか覚えられなくて」


 レニは正直に自分の思いを口にする。確かに学生の中で大陸史の評判はあまり良くない。それは教員のせいではなく、魔法を学びに来たのになぜ大陸の歴史を勉強する必要があるのか、という必要性に疑問を持つ学生が多いからである。


「魔術師に歴史は必要ないと思うのか?」


「い、いえ、必要ないとは言いませんが、まずは魔法を学ぶことの方が先じゃないですか?」


 ジルに必要ないのか、と聞かれると、レニは必要ないとは断言しづらかった。しかし本心から言えば。歴史など必要ないとはっきり言いたかった。


「レニ、物事を短絡的に、単純に考えてはいけない。魔術師は単に魔法を使うだけの人間ではない。政治や外交、統治にだって関わることがあるんだ。その時に自分たちの国や社会の成り立ちを知らなかったら、どうなると思う? 現在というのは過去の集積によって形作られている。今を知るためには、まず過去を知る必要があるんだ」


「……」


「それに大陸の興亡の歴史は、魔法が使用された歴史でもある。歴史に影響を与えるような戦争が起こった時、ほとんどの場合魔法が戦争の勝敗に大きく関係しているんだ。それを学ばなければ、魔法の戦争利用について必要な知識が抜け落ちてしまう。魔術師になれば、多かれ少なかれ戦争や戦いに巻き込まれることになる。その時に何が道標みちしるべになると思うんだ?」


 ジルはいつもより饒舌じょうぜつになっていた。ジルが追い求めるこの世界の真理に、歴史は大きく関わっているからである。人の営みの積み重ねが歴史だとすれば、歴史は過去や未来との架け橋になるものである。ジルとしてはそれを軽視するような魔術師は、せいぜい下っ端しか務まらないと見ていた。


「そうですね。先輩の話を聞いて考え方が変わりました。私ちょっと物事を単純に割りきって考えすぎていたかもしれません」


「いや、実際レニのように考えている学生は多いと思うよ。将来的に大陸史の授業はなくなってしまうかもしれないね」


 そう聞くと、レニもなんだか寂しい気になってくる。


「それで、今日はレニにアルネラ様の誘拐事件の事や帝国に行った時の事を話そうと思ってたんだ。今までレニにゆっくり話す時間がなかったからね」


「レミア先輩の事は残念でした。私はお会いしたことがなかったのですが、ジル先輩とは仲良かったのでしょう?」


「いや、実はそれほどでもなかったんだ。今回軍事演習に行く間に、少し分かりあえたと思ったんだけど……」


「そう思える人が亡くなってしまったのは寂しいことですよね……」


「そうだね。魔術師をしていれば人の生き死にを目にする事は多くなるのだろうけど……」


 ジルは誘拐犯の馬車と遭遇した事、ゼノビアたちと出会った時の事、そして敵と戦った時の事をレニに語った。レニは改めてジルの口から事件のあらましを聞いたが、よくジルの命があったものだと思う。とくにレミアを殺した男とジルが対峙し、蹴りを受けたというところでレニは血の気が引く思いだった。その蹴りが剣であったなら……。本当に生きて帰って来てくれて良かった、レニはそう思った。


 ジルは次に、使者として帝国へ行った事、レミアの父エルンスト=シュライヒャーと出会った事、王宮で晩餐会に出席した事などを話す。もちろん王国の機密に関わることは話していない。


 それでもレニにとっては別世界の出来事として興味深かった。伯爵令嬢として貴族の社交界で生きてきたレニは、ジルなどよりも遥かに貴族社会のことは理解している。ブライスデイル侯、ヘルマン伯、レント伯のことは知っていたし、実際に話したこともある。レニは貴族の顔と爵位、関係性などはおおよそ頭の中に入っている。その面でレニはジルのサポートができるだろう。


「ところで君の父君はどのグループについているんだ?」


「父ですか? 父は私が知る限り中立派だったと思います。父は戦争で英雄となりましたから、館にはブライスデイル侯からの勧誘の使者が頻繁に来ていました。そしてレント伯からも」


「レント伯が? 彼女は中立派だろ?」


「はい。恐らく同じ中立派として歩調を合わせようということだと思います。父が私にレント伯のことを話したことがありました」


 ジルは晩餐会の席で会ってから、レント伯のことが気になっていた。ゼノビアが言っていたように、彼女の勢力は大きく、王国の行く末を左右する存在となるかもしれない。今は中立派だが、キャスティングボードを持つ彼女が動き出した時、王国に嵐が吹き荒れるかもしれない……。

 この話が面白いと思って頂けたら、最新話の下にある評価を押していただけると、作者は小躍りして喜びます、


ご協力お願いします。m(_ _)m

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