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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第一章 ルーンカレッジ編
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001 ジルフォニア=アンブローズ決闘に臨む

初投稿になります。楽しんで読んでいただければこれに勝る幸せはありません。

2018年9月22日改稿しました。

 ルーンカレッジ(魔法学校)は新年度を迎えていた。


 自由都市フリギアの教育制度では、新年度は9月より始まる。そのため、例年8月末より、まだ幼い少年・少女がここフリギアに集まってくる。親が付き添うことは禁止されているため、幼い身でありながら遠くから一人で旅してくる者も多い。


 レニ=クリストバインもそんなルーンカレッジの新入生の一人である。見た目はかなり若く、通常であればまだ両親とともに過ごし、大事に育てられている年齢である。黒地に金の刺繍が入った上着、下はキュロットに白いタイツという出で立ちだ。


 一見して高い身分であることをうかがわせるが、その服装は通常男性のものであり、少年にも見える。綺麗な黒の髪を短めに切りそろえ、長くすればさぞ美しい髪であったろうと残念に思う者もいるかもしれない。まだ成長していないためか、胸のところで服がそれほど起伏していないようだ。


 恐らく彼女はこの都市に来たことがあるのであろう。足取りは迷いなく確かなものだ。次第にレニの前に石造りの巨大な建物が見えてきた。ルーンカレッジである。


「新入生か?」


 正門のところで、軽装の警備兵に問いかけられた。


「はい、今年魔術師コースに入学するレニ=クリストバインです」


「クリストバイン? 聞いた名だな……ってあの伯爵家のクリストバインか?」


 警備兵が驚いたのも無理は無い。クリストバインといえばシュバルツバルト王国の上級貴族であるだけでなく、近年バルダニア王国との戦争で活躍し、その名は広く轟とどろいている。


「では父君はレムオン=クリストバイン様か? 有名人じゃないか!!」


「はい。でも父の名は私には偉大過ぎるんです。ですからあまり家の名前は出さないでください」


「ははは、なるほどな。貴族というのも大変な面があるわな」


 事実レニはクリストバインの名を出されることが嫌だった。名門の出であることに誇りを持ってはいるが、幼い頃から厳しい躾と教育を受け、いずれ家を継ぐ者として家や使用人たちの期待が大きく重荷に感じているのである。


 貴族の子弟の中では、伯爵より上位の侯爵、公爵家もあるが、戦争で英雄となったレムオンは時の人であり、娘のレニも好奇の目にさらされてきたのだ。


「魔法学校の基本的なことは知っているかな? この学校には大きくわけて魔術師コースと魔法戦士コースがある。君が入る魔術師コースは、魔法を専門に学び、将来魔術師となることを目指すコースだ。初級、中級、上級クラスがあって、初めは誰もが初級から入らなければならない」


「先は長いですね……。無事に卒業できると良いんですが」

 レニは苦笑しつつも無難に答えておいた。


「ところで、この学校には独特の制度があるんだ。新入生には1年間、上級生がついて指導役になるんだ。新入生は勉強のことや生活のことで相談にのってもらうってわけさ」


「はい、そのような制度があるという話は父から聞いていました」


「指導生に選ばれた上級生はみんな優秀なんだぜ。なにせ新入生を指導するわけだからな。君の指導生は……おお、あのジルか。おまえさん、運がいいな」


「ジル? どんな方なんですか?」


「この学校始まって以来の天才と呼ばれている奴だよ。中級クラスなんだが、もうすでに第三位階の魔法も使えるらしい」


「たしか正規の魔術師でも、第三位階の魔法までしか使えない方もいるんですよね? 凄い人じゃないですか!!」


 まるで自分とは違う世界の人間のようだ、そうレニは感じた。


「しかもジルは君と一つしか歳が違わないんだぜ。いま14歳だ」


「ええええ!?」


「来年また上級クラスに上がるみたいだ。そうなると15歳で上級クラスってことだな」


「……」


「そんな顔しなくて大丈夫だ。ジルは愛想が良いとは言えないが、冷たいやつじゃない。同じ中級クラスの生徒の中にも信奉者が多いって話だ。ま、そんなわけで指導生に選ばれたってわけさ。さあ、ここでしばらく待っていてもらおう。いまジルに連絡して迎えに来てもらうから」


「ご迷惑じゃないですか?」


 レニは第一印象を悪くしないか心配になった。小さな頃から心配性なところがあり、父からもっと堂々としろとよく言われている。


「なーに、大丈夫さ。それも指導生の仕事の内だからな。新入生にとっては初めて学校に来た時こそが、一番困る時だろ?」


 警備兵は片目をつぶると後を仲間にまかせ、詰所を出て行った。


 しかし警備兵はなかなか帰ってこなかった。その間、廊下を通り過ぎる学生たちの話し声が聞こえてくる。なにか事件が起こったらしく、駆け足で通り過ぎる音が聞こえる。


「聞いたか? セードルフが下級生と決闘だってよ!」


「まじか! セードルフって学生代表のだろ。相手は誰だ?」


「ほら例の天才少年だよ。確かジルフォニア=アンブローズっていう」


「ああ、一年で中級に上がった奴か。おもしれーじゃん。その2人なんか関係あるのか?」


「セードルフがそのジルの指導生だったはずだ」


「よし、とにかく行ってみようぜ!」


 どうやらレニがこれから会おうとしていたジルという指導生が、決闘の当事者になっているようだった。レニはまだ見ぬジルの顔を思い浮かべながら、決闘の場所だという闘技場に走り出していた。


 闘技場の位置はすぐにわかった。人の流れが自然とその闘技場まで続いていたからである。人だかりの向こうで2人の学生が向かい合っていた。1人はすぐに上級生だと分かる出で立ちをしていた。そしてもう1人は、見た目がレニよりやや年上の少年である。


 これがジルフォニア=アンブローズという学生だろう。14歳という年齢よりも幾分大人びて見えた。綺麗な銀髪、切れ長のアイスブルーの目をしたかなりの美形である。どうやら決闘はこれから始まるらしかった。


「セードルフさん、どうしてもやるのですか? 確かに先輩とは考え方が違いますが、何も力ずくで決着をつける必要はないのではないですか?」


 ジルフォニアという少年の口調はいたって丁寧であったが、年上の先輩に対してはやや慇懃無礼な響きに聞こえなくもない。


「だまれ、ジル! お前のその先輩に対する無礼な態度、今日こそ正してやる」


 2人の間には、日頃から対立があったことをうかがい知ることができる。そしていま、対峙する2人の間にはもう一人上級生らしい美女が間に入っていた。


「セードルフ止めときなさいよ。こんな人が多いところで決闘する気? 勝てばまだ良いとして、負けたら恥よ」


「だまれ、ミアセラ! お前もジルの味方につくつもりか」


 セードルフは女子学生にいさめられたことで、意固地になっていた。そもそも魔法に限っては、女性の方が適正がある場合が多く、ルーンカレッジでも女子の方が多いというのに。


「別に誰の味方でもないわ。私は同級生のよしみで、あなたのために言ってるのだけれど。ジルの魔術師としての実力は、指導生であるあなたが一番よく分かっているでしょう?」


 ミアセラの言葉は冷静で中立的なものだったが、この場合セードルフをさらに意固地にさせるだけとなった。


「仕方がないわね。じゃあ私が審判役をやりましょう」


 ジルは成り行きを見守っていたが、セードルフがどうにも引かないのを見て、ついに覚悟を決める。軽く歩幅を広げ、魔法を詠唱する構えをとる。


 ミアセラが大きな声でふたりに呼びかける


「では、勝負は2人の争いの元になったフレアでの勝負とします。相手を行動不能としたほうの勝ちよ」


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