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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第四章 王位継承編
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125 崩御

「で、『あれ』は結局何なのだ?」


 皇帝ヴァルナードが側に控えるザービアックに問いただした。ザービアックには、皇帝のいう『あれ』が「悪魔」のことを指すのは自明のことであった。


 帝国軍は先日の「シュライヒャー領の戦い」で、シュバルツバルトの名将レムオン=クリストバインを討ち取り大勝利を納めた。帝国軍は王国に対する久々の勝利にわいていた。そんな戦士たちの浮かれた様子を遠目に見ながら、二人は祝杯をあげていたのだ。


「悪魔ですよ」


 ザービアックは悪戯っぽい笑みを浮かべていた。彼も大勝利に多少は浮かれているのだろう。


「ふふふ、そんなものが本当にいるのか?」


「神がいるのであれば、悪魔がいたとしてもおかしくはないでしょう」


 ヴァルナードは肩肘をつきながらその言葉の意味を吟味していた。


「しかし、真実悪魔だとすれば、それを使うというのは外聞が悪いかもしれぬな」


「ははは、陛下がそのようなことをお気になさるとは。帝国がこの大陸を統一してしまえば、批判する者もおりますまい」


 その言葉を聞いてもいまひとつ納得していないヴァルナードの様子を見て、ザービアックは言葉を続けた。


「『悪魔』というのは便宜的な呼び名です。なんでしたら『神』でも良いのです」


「定義というのは、そのようにいい加減なものなのか?」


 ヴァルナードは大魔導師との知的な会話を楽しんでいるようだった。ザービアックとしても、皇帝の無聊ぶりょうなぐさめるにやぶさかではない。


「神といい、悪魔という。しかして、それは表裏の存在、信仰の立場によって紙一重なのです。人間が『悪魔』と呼ぶ存在は、異なる立場の人間にとっての神。うつし世の信仰の対象が神だとすれば、あの堕天使ガスパールは古代人の神だったのです。太古の昔、この大陸を支配した古代人の神が封印され、私がそれを解いた。それこそがあのガスパール。ゆえに、『あれ』は神と呼んでも間違いではないのです」


「なるほどな」


 ヴァルナードはニヤリと笑った。彼は「神=悪魔」という強大過ぎる力を手に入れたのだ。この力を使えば帝国が大陸を再統一することも不可能ではないだろう。そして、もしそれを成し遂げることが出来れば、彼の名は永遠に歴史に刻まれるに違いないのだ。


**


 シュバルツバルト王宮は、「シュライヒャー領の戦い」での敗戦と、レムオンの戦死という二重の悲報に接して、ひどく沈んでいた。


 戦での敗戦もさることながら、これまで無敗を誇り、王国を守護してきたレムオンが死んだというのは、この国を象徴する存在が失われたことを意味するのだ。そしてそれに輪をかけたのが、レムオンが敗れた原因、謎の召喚魔術である。


「レムオン殿が敗れるとは……」


 重臣たちの集まる緊急会議の席上、アムネシアは未だにその事実が信じられなかった。レムオンの訃報を聞いて、彼女は自分の耳を疑い、取るものも取りあえず王都まで来たのである。


「して、我軍の損失は?」


 これは、第三方面軍司令官のサイクス=ノアイユ。


「ロゴスまで撤退してきたのは約6000。思ったより兵の損失は少なかったのですが、これはレムオン殿の撤退の判断が早かったこと、そして副官のアレクセイが健在であったことが幸いしました」


 大魔導師ユベールが状況を説明した。


「そうか、あのアレクセイは生きていたのだな。それは不幸中の幸いと言っていい」


 アレクセイの名は、レムオンの腹心として知らぬ者はいなかった。レムオンの替りにはならないとしても、彼が生きていたというのは朗報であった。


「それで、その召喚魔術というのは?」


「それが良くわからぬのです。兵士やアレクセイ殿の言うことを総合すると、どうやら召喚魔術らしいというだけで、本当に召喚魔術なのかも分かっていません。戦の場に現れたのは、目撃者の証言では『悪魔』だと」


「悪魔? ユベール殿、ふざけているのではあるまいな?」


 ユベールは思わず苦笑した。まったく、悪魔などといわれて信じる方がどうかしているというものだ。


「お気持ちは分かりますが、少なくとも戦に加わった者たちはそう呼んでおります」


「それが何なのか、大魔術師殿でも分からないのか?」


 その問いを投げかけられ、ユベールは苦悩の表情を浮かべた。


「残念ながら不明です。目下調べているところですが……」


 いくら様々な知識に明るいユベールとはいえ、目撃者からの証言だけでは正体を突き止めようがなかった。せめて自分の眼で見なければ無理だろう。


「一つ分かっていることは、私が知る召喚魔術のなかに、そのように強大なモノを呼び出す魔法は存在しないということです。これは何か特殊な魔法と思われます」


 会議室が深刻な雰囲気に包まれていたその時、突然大きな音を立てて扉が開かれた。


「も、申し上げます!」


 慌てたようすで、侍臣が入ってきた。


「何事!? これは最高機密会議なのよ!」


 アムネシアが眉をひそめた。重臣同士の議論を邪魔するとは、余程のことでない限り許されないことだった。


「こ、国王陛下が、陛下がただいま崩御なされました!」


 知らせを聞き、会議に参加した者たちは呆然となった。いま国王が死ぬとは、時期が悪すぎた。これで王国は、帝国の進攻というこの重大な危機にあって、王位継承争いという内乱まで始まることになったのである。


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