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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第四章 王位継承編
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118 ユリウスとの交渉

 あらかじめ重大な用件で部屋を訪ねることを伝えた上で、ジルは再度ユリウスの私室を訪問した。必ず同室するように伝えてあったことから、アルトワ候も在室であった。


「今日はお二人に重大なお話があって参りました」


「王位継承の件ですな?」


 そうと聞いても関心が無さげなユリウスに代わりアルトワ侯が聞き返した。


「そうです。すでに王位継承争いは、アルネラ様とルヴィエ殿下の一騎打ちの様相を呈していることはお認めになられているはずです」


「……はっきり言われるの」


 普通は面と向かって言えないようなことを言われ、アルトワ侯は苦笑した。


「お二人には持って回った言い回しは不要、そう判断いたしました。私はお二人に好意を持っています。ですからお二人が将来にわたって不幸にならない道を探したいと思っているのです」


「先の短いワシのことはともかく、ユリウス殿下をお守りすることが適いますかな?」


 アルトワ侯は孫を見るような眼差しでユリウスを見つめている。妻となった自分の娘が大事なだけでなく、この奇矯な青年のことも自分の孫のように可愛がっているらしい。ジルは前回ユリウスを訪れた際に、アルトワ侯のその視線に気がついていた。そしてだからこそ、この交渉が成功する自信があったのである。


「ユリウス殿下とアルトワ侯をはじめとする貴族は、アルネラ様の王位継承を支持して下さい。その見返りとして、アルネラ様はユリウス様の王族としての身分を生涯にわたって保証し、王族として十分な生活を保証いたします。決して危害を加えるようなことはありません。アルトワ侯らユリウス派の貴族たちに対しても、同様に身分と領土を保証いたします」


「ふむ」


 アルトワ侯はジルの条件を聞いて安堵したようであった。侯は早い段階からユリウスが王となることを諦めていた。それはユリウスの特異な性格を早くから知っており、決して王に向いていないと知っていたからである。


 むしろ何かの間違えで王となれば、ユリウス自身が苦しむことになるだろう、そう考えていた。したがって、最終的にユリウスが有利な形でどのように幕引きをするか、それのみを考えていたのである。


 ジルの提示した条件は、ユリウスが生涯にわたって身分と生活が保証されるというものであった。これがルヴィエやブライスデイル侯の出した条件であれば信じられなかったに違いない。


 だが、アルネラは信用できる人柄だし、短い付き合いながらジルも信頼に値する人間だとアルトワ侯はみていた。それは初めてジルがユリウスの部屋を訪ねてきた時に、我慢強くユリウスの話しに付き合ってくれたことから抱いたことだ。


 これまでルヴィエをはじめとして、自分や家臣の一部を除き、誰一人ユリウスを理解しようとした者は居なかった。それは理解できないのではなく、理解しようとする努力も払わなかったのだ。だからアルトワ侯はユリウスの真価を理解したジルを信用できたのである。


 だが――


 この条件にユリウスは何の反応も示さなかった。王族としての待遇だのといったことは、ユリウスの関心の外にあるのだ。アルトワ侯がいくら賛成したところで、ユリウスが自らアルネラへの支持を表明しなければ、アルネラ派となったことにはならない。どうやってユリウスを説得したものか、アルトワ候はユリウスの横顔を見ながら悩んでいた。


「それともう一つ、ユリウス殿下には自身の研究に没頭する自由を認め、十分な研究費も支給します。また『火砲』が実用化されたあかつきには」


「あかつきには!?」


 ユリウスは思わず立ち上がり、聞き返してきた。研究について触れたことで、やはりユリウスはジルの言葉に食いついたのだ。


「『火砲』が実用化されたあかつきには、ユリウス殿下を『火砲隊』の隊長に任命し、戦場でこの部隊を指揮していただきます」


「!?」


 アルトワ侯は文字通り仰天した。彼は確かに意表を突かれたのだ。まさかアルネラ派がこのように奇想天外な条件を出してくるとは思わなかったのだ。これは一体誰の思案か……


「よしっ、その条件受け入れるぞ! 私はアルネラの王位継承を支持する! 火砲隊の隊長か。早く戦場で火砲がうなる音を聞きたいものだ!」


 アルトワ侯は、ユリウスの返事のあまりの速さに大きくのけぞった。これはユリウスの嗜好を熟知する者の仕業に違いない。そしてそんな者は、目の前のもう一人の王子の他に居るはずがなかった。


「うわっはっはっは!」


 アルトワ候は心の底から笑った。全くおかしくて仕方がなかった。


「ジルフォニア殿下、このワシの負けですじゃ。まさかこのような形でユリウス殿下を籠絡ろうらくするとは思わなんだ。あなたとアルネラ様なら、これから先ユリウス殿下をお任せすることが出来る。このワシの役目も、終わりというわけですな」


 アルトワ侯の眼には光るものが流れていた。それは決して可笑しくて出たものではないに違いない。

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