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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第四章 王位継承編
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114 ユリウスの秘められた素顔

 ユリウスの座る机の上には、大きな紙が広げられていた。ユリウスはその紙に何かを書いていて、ジルが来たのに気づかなかったらしい。失礼になるかもしれないが、ジルは後ろからのぞいてみた。紙には図面が引かれていて、何かの設計図のようであった。


「ひょっとしてそれは攻城兵器ですか?」


 ジルは会話の糸口を見つけようと何気なく口にしたのだが、その言葉に対する反応は劇的なものであった。


「おお、分かるか! ジルフォニアとやら、お主は戦には詳しいのか!?」


 いままで無関心であったのが嘘のように、ユリウスは眼を輝かせていた。


「殿下! ジルフォニア殿下は弟君でいらっしゃいますぞ」


「弟? おおそうか。それで弟よ、戦には行ったことがあるのか?」


 相変わらずジルが弟であることはどうでも良いことのようであった。


「はい、先日まで私は上級魔術師として前線で戦っていました」


「何、前線に? なにゆえ王族が前線で戦うのだ?」


 アルトワ侯が呆れたように溜息をついた。


「だから陛下がこの間発表したではありませぬか。ジルフォニア殿下はつい最近まで王子であることが伏され、恐れながら一家臣として仕えておられたのです」


 ユリウスは「爺」の小言にこちらも苦笑を浮かべていていた。


「さようか。では弟よ、それでは戦で使う道具にも詳しいな?」


「とくに専門としているわけではありませんが、一通りのことは」


「いまの戦で攻城兵器として使われているものは何だ?」


 何やら試されているような気がして正直良い気持ちではないが、ユリウスと話すことで彼のことを知ることが出来る。ジルはそう思って出来るだけ話してみようと考えた。


「投石器、破城槌、それから攻城塔というところでしょう」


 破城槌は城門や城壁を壊すための道具で、太い丸太に車をつけたようなデザインをしている。攻城塔は城壁に橋をかけ、兵を乗り移ることができるようにする兵器である。いずれも古くから都市攻略に使用されてきた。


 先のフリギア解放戦争は、例外的に都市内部で反乱を起こし内側から城門を開けることができたので必要なかったが、本来まともに攻略するとなれば、その高く厚い城壁を攻略することは並大抵のことではなかったはずだ。


 たとえ魔法であっても一握りの魔術師が使うことのできる第五位階魔法「メテオストライク」のような極大魔法でなければ、ほとんど効果はないだろう。都市の城壁には対魔法戦に備えて抗魔処理が施されているものだ。


「従来、都市の高い城壁を攻めるには多大な犠牲を払ってきた。投石器の飛距離には限界があり、飛ばせる石の重量にも限りがある。破城槌や攻城塔が近づけば敵もそれを阻止するに決まっている。結果、攻城兵器が戦いの焦点にもなる」


 ユリウスは得々と戦いについて語っていた。恐らく第一王子ゆえ、戦いになど出たことは無いはずだ。ならば素人が知ったかぶりで語っているのか。いや、それにしてはよく研究されている、とジルは思った。


 これが無能と噂され、先ほどまで人間に関心を向けていなかった男なのか、とジルはユリウスの顔をまじまじと見つめなおした。


「そこでだ、私は新たな兵器を考えたのだ。まだ実験段階で実用には遠いがな。もしこの兵器が完成すれば、戦争の在り方は変わるぞっ!」


「どのような兵器かお教えいただけますか?」


 ふむ、とユリウスは腕組みをしつつ、アルトワ侯の顔を見た。アルトワ侯はユリウスが本当は話したくて仕方のないことを知っている。内心のおかしさを隠しつつ、「教えてさしあげては如何?」と助け舟を出した。


「まあ、よかろう。他ならぬ弟だからな。投石器のように鉄の玉を飛ばすが、全く違う力で放つのだ。火薬という力でな」


「殿下、実際に見ていただいてはどうですかな? ワシの用というのは、実験の用意が出来たことを知らせに来たのですじゃ」


「そうだな……。ジル、一緒に来るか?」


 問われたジルは予想外の展開に驚いていた。


**


 ジルが連れて行かれた場所は、ロゴスから出てすぐ近くにある平野であった。すでにユリウスの家臣とみられる男たちが「実験」の準備をしていた。


「これは『火砲』という。火薬という薬品を使って魔法を使わずに爆発を起こし、その勢いで玉を遥か遠くへと飛ばすのだ」


 ユリウスは家臣の男に始めるよう合図をした。


「耳を塞いでおけよ」


 ユリウスの言葉をジルは不思議に思ったが、言うとおりにすることにした。


 すると――


 ドゥガァアアアアン


 まるでファイアーボールをいくつも放ったような大きな音がした。火砲から大きな鉄の玉が飛び出し、遠く離れた場所にある的を破壊した。


「すごい……」


 ジルは素直に驚いた。魔法とは異なる方法でこのような破壊力を生み出すとは、ジルにとっても新たな発見だった。この世界には、魔法の他にもまだ明らかにされていない不思議があることを思い知らされた。


「どうだ、凄いだろ? だが、まだまだ課題が多くてな」


「課題ですか?」


「砲の耐久力が弱くて数発で壊れてしまう。それじゃ使い物にならないだろ? それとなるべく壊さないためには威力を押さえないといけないんだが、そうすると飛距離が投石器と大して変わらなくなってしまう。それなら投石器を使えば良いということになる。本末転倒だな。課題は威力を上げつつ、それに耐える耐久性を持たせることだ」


 兵器のことを語っているユリウスの顔は輝いていた。実際に発明している「火砲」はまだ実用段階には無いが、高い将来性を感じさせる。決して無用なものを作っているわけではないのだ。


 ユリウスは決して無能なわけではない。ただ王や指導者に決定的に向いていないだけなのだ。家臣たちのユリウスに対する評判が高くなかったというが、それも納得がいった。家臣が王子に忠誠を尽くすのは、自身の栄達のためでもある。だが、ユリウスが王となるのは不可能だと家臣が感じたとしても無理はない。


 だが――


 この男は一種の天才だ、ジルはそう結論づけた。自分に向いていることをやる限り、ユリウスはその天才的な才能を発揮できるはずだ。ジルはこの日、ユリウスに会ってそう感じたのだった。

やや長いので二話に分けました。

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