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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第四章 王位継承編
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113 第一王子ユリウス

 ジルはアルネラと王位を争う長男ユリウス、次男ルヴィエとはこれまで直接話したことはなかった。ジルは上級魔術師であったが、王子であるユリウスやルヴィエからすれば、数多あまたいる身分の低い家臣の一人でしかなかった。とても話が出来る身分差ではなかったのだ。


 ジルの名も、アルネラを救ったことで名を聞いたことくらいはあったかもしれないが、それもすぐに忘れていただろう。


 だが、庶子とはいえ王子として認められたことで、良くも悪くもジルの名は注目を集めることになった。兄弟であることが分かったユリウスやルヴィエに挨拶するため、ジルは二人を訪問することにした。このような場合ジルの方から出向くのが筋であろうし、アルネラの「敵」を知る良い機会でもあると考えたのである。


 長男ユリウスは今年23歳、ジルより6つ歳上である。順調であればユリウスが歳の順から言っても王位を継承するのがあるべき姿であった。ところがユリウスは側近の家臣からも良い評判が聞こえて来ることはなく、後継者としては貴族たちに見放されているという。現在ユリウスを積極的に支持しているのは、娘を嫁がせたアルトワ侯の一派くらいのものであった。


 実はジルはユリウスを遠目からであってもほとんど見たことがなかった。だから王子がどんな人物か全く知らなかったのである。正直なところ、ルヴィエとの王位継承争いのことに集中していたジルからすれば、ユリウスはすでに「終わった」人物であり、関心は薄かったのだ。


 ジルはユリウスの部屋へと着き、扉をノックした。が、何も反応がなかった。


 今日部屋を訪ねることはあらかじめ連絡していることである。さすがに初めての訪問で勝手に開けるのは無礼であろうし、どうしたものかとジルは部屋の前で途方に暮れていた。すると初老の紳士がやはりユリウスの部屋を訪ねて来た。


「お若いの、ユリウス様に何か用事かな?」


 紳士は身なりからは貴族であるのか、家庭教師などの人間なのか、良くわからない人物だった。つまりは高位の貴族のように、あからさまに豪奢な服を身につけて居ないのである。


「あらかじめ今日お訪ねすることはお伝えしてあったのですが、ノックをしても反応がないので困りました」


 王宮というところは、何が不幸を招くか分からないところである。ジルはその男に対しても言葉使いに気をつけながら状況を説明した。


「はははは、恐らくユベール様は中にいらっしゃるはずじゃ」


「えっ? ですが中からは何も……」


「恐らく研究に没頭されてるのじゃろうて」


 紳士はジルに悪戯っぽい笑顔を向けると、部屋の扉を勝手に開けた。大丈夫なのだろうかとジルは心配になったが、その男の慣れた様子を見てユリウスの知り合いに違いないと確信した。


 部屋の中には、確かにこちらに背を向けて机に向かう男が居た。


「ユリウス様」


 初老の紳士が男に声をかけた。ユリウスはそれに全く気が付かないかのごとく、何かに集中しているようだった。


「やれやれ、困ったことじゃて」


 紳士はジルに苦笑すると、ユリウスのすぐ側まで近づいていった。


「ユリウス様!」


 今度はかなり大きな声でユリウスに呼びかけた。さすがにこれには気が付き、ようやくユリウスは紳士の方へと顔を向けた。


「なんだ、爺か。何用だ」


 ユリウスはさして関心がないかのように言った。その言い方からして、ユリウスと紳士は相当に親密な仲であることが分かる。


「ワシは大した用ではないが、客人が来ておるようですぞ」


「客?」


 ユリウスは後ろを振り返ってジルを見ると小首をかしげた。


「そなたは何者だ? 私に何の用だ?」


 約束しておいたのにその言い草か、とジルは呆れながら答えを返した。


「私はジルフォニアと申します。今日はユリウス様にご挨拶に参りました」


「なんと!? あなたがあのジルフォニア殿下じゃったのか」


 ユリウスは反応が薄かったが、老紳士の方はジルの名前を聞いて驚いた。


「これは先ほどから失礼をした。ワシはエドガー=アルトワという。ユリウス殿下の妻はワシの娘でな、殿下の義理の父ということになる。以後お見知りおきくだされ」


 これが噂に聞くアルトワ侯か、とジルは改めて老紳士を観察した。侯ということはブライスデイル侯と家格としては同格ということであり、長い伝統のある貴族のはずである。しかし、見たところアルトワ侯は大貴族としてはいたってラフな格好をしていて、とても由緒ある家の人間とは見えなかった。かなりの変わり者なのかもしれない、とジルは思った。


「ジルフォニア? 知らんな」


「殿下!? 先頃陛下より王宮全体に発表がございましたぞ。ここにいるジルフォニア殿は、陛下と『聖女』シーリス殿との間に生まれた御子だと」


「ふむ、そうだったか?」


 そう聞いてもユリウスはさして関心もないようであった。ジルはユリウスの態度にただならぬモノを感じた。


 アルトワ侯は苦笑いを浮かべていた。


「ジルフォニア殿下、済まぬのぉ。ユリウス殿下は自分の関心のあること以外はこの通りなのじゃ」


「なるほど……」


 相手が王位継承権を持つ兄王子ともなれば怒るわけにもいかず、ジルも苦笑を浮かべるしか無い。ジルはむしろユリウスは何に対してなら関心があるのか気になっていた。

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