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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第四章 王位継承編
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107 レムオンとの再会

 ジルは吉報を持ってヘルマン伯とゼノビアのところへ報告しに行った。


「そうか!! アムネシアは我らについてくれたか!」


 感情の豊かなゼノビアは、嬉しさを爆発させた。貴族らしく自己抑制を効かせているフランツも、微笑を浮かべて嬉しさをにじませていた。


「これでレムオン殿やクリスティーヌ殿を誘いやすくなったな。いまだブライスデイル侯が有利とはいえ、大分差を縮めることが出来た」


 フランツの言うとおり、ルヴィエ派が圧倒的に有利な状況に対し、アムネシアの動向は一石を投じることになるだろう。心ならずも中立であった者がアルネラ派に味方することも期待できる。


「伯の方はいかがですか?」


 ジルはフランツがとりかかっているルヴィエ派の切り崩しについてたずねた。


「正直言ってはかばかしくはない。誰も有利な側から不利な側へつく者などいないからな。しかし、今回のことで状況は変わってくるのではないか。これからは我々に興味を示す者も多くなるに違いない」


 見通しが明るくなったためか、フランツの表情も晴れやかになっていた。


「あとは大物二人か」


 ゼノビアのいう二人が誰であるか、ジルもフランツも分かっていた。


「ここは手分けして工作に当たろう。レムオン殿のところには、親しい間柄であるジル殿が行ってくれ。クリスティーヌの方はゼノビア殿に任せる。どちらも一筋縄ではいかない相手だ。決して諦めず粘り強くな」


 フランツの判断でジルはレムオンの担当となった。ジルはかつてレムオンと交わした会話を思い出していた。レニの故郷を訪れた際、父親のレムオンにも会い、親しく話す機会を得たのだ。その時に抱いたレムオンの印象は、冷徹な戦略家というものであった。


 であればこそ、レムオンを自派に勧誘するのは難しいと言わざるを得ないのだ。再会したレムオンは何を語るだろうか、ジルはそのことを考えていた。


**


 第一方面軍司令官であるレムオンは、現在帝国の旧シュライヒャー領に駐留している。ここは帝国がフリギアに進攻した際に、レムオンが占領し第一方面軍の本拠となっていた。そのため防衛施設も建てられて要塞化しつつある。


 ジルがこの地を訪れたのは二度目である。一度目は、ゼノビアとともにレミア=シュライヒャーの遺品を父エルンストのもとへ届けに行った時である。あれからそれほどの月日が立っているわけではないのに、旧シュライヒャー領の光景は全く違うものとなっていた。行き交う人間は王国の兵士ばかりである。


 レムオンの陣所を訪ねると、応対に出てくれたのは副官のアレクセイだった。常勝を誇るレムオン軍の先駆けとして、彼の名は「狂戦士」バレス以上に鳴り響いている。その武勇は、彼を相手にしたバルダニアと帝国の両国の軍が身にしみているだろう。


「よく来たな。いま閣下は前線に視察に出ておられる。もうすぐ帰ってこられる予定だから、ここで待っているが良い」


 アレクセイは決して気さくな性格ではないが、部下や目下の者に対しては優しい面がある。彼と一度会ったことがあるジルには、それが良く分かっていた。


「ありがとうございます、アレクセイさま」


 ジルはアレクセイの武人らしい苦みばしった顔を見つめた。レムオンは英雄と呼ばれながらも、外見はあまり武人には見えないが、アレクセイはいかにも騎士らしい力強さがあった。


 騎士アレクセイは、英雄レムオンの半身として常に最前線に立ち、勝利を勝ち取ってきた。もともとはレムオンの兄・カイルに仕えていたが、カイルの勘気を被って謹慎していたところを、当主となったレムオンによって許されたのだ。以来、レムオンが戦うところはどこでも、アレクセイは常に付き従ってきた。


「アムネシア殿の方はどうだ? そちらも王都の争いが収まらなければ動けないだろう」


「ええ、フリギアにずっと駐留しています。アムネシア様も無聊ぶりょうを嘆いておられます」


 ジルの言葉を聞いて、アレクセイが破顔した。同じ前線にいる武人として、アムネシアの心情がアレクセイにはよく分かるのである。


「こんな王位継承争いなど、早々にやめてもらいたいものだな」


「終わるとして、アレクセイさんはどのような結末が良いと御考えなのですか?」


 ジルはレムオンと話す前に、その副官の考えを聞いてみたのである。


「ははは、早速探りか? 私は戦うしか能のない人間だ。上がどうなろうとそれに従うまで。――ただ、副官としてレムオン様が危険なお立場に立つことだけは防がせてもらう。この事、君にも言っておくぞ」


 ジルはアレクセイが訪問の目的を正確に察していることに気付かされた。


「私も閣下を危地に陥れるのは本意ではありません。ですが、レムオン様の保有する武力と名声はあまりにも巨大なものです。ご本人の思惑はどうあれ、中立が許されるお立場ではないでしょう」


 ジルがそこまで言った時――


「おいおい、私を抜きにして何を話しているのだ」


 レムオンが部屋のドアを開けて帰ってきた。レムオンは外套をかけると、疲れた様子もみせずデスクに腰掛けた。アレクセイが水を差し出しつつ成果を確かめた。


「閣下、前線はいかがでしたか?」


「今のところ、帝国が攻めて来る気配はない。今は絶好の機会なはずだが、それが逆に不気味に思える」


 それはジルやアレクセイ、そしてアムネシアも等しく感じていることだった。帝国は何か良からぬことを考えているのかもしれない、近年の帝国の不規則な行動からそう思われるのだ。


 レムオンがジルの方に視線を向けた。


「ジル、久しぶりだな。御前会議以来か」


 二人が最後に顔を合わせたのは、エルンスト=シュライヒャーの件で開かれた御前会議の場であった。以来二人は別々の前線に立ち戦っていたのである。


「アムネシア殿の方はどうだ? フリギアを滞り無く治められているかな?」


「はい、最近は住民も王国軍の駐留にも慣れ、フリギア側の協力もあって、都市の復興が急速に進んでいます。帝国が仮に攻めてきたとしても、容易く落ちることはないでしょう」


「それは良かった。むしろ危ないのはこちらの方か。我々には強固な城壁などないからな」


 レムオンがアレクセイと顔を見合わせ苦笑を浮かべた。旧シュライヒャー領は第一方面軍により防備が整えられているとはいえ、都市の城壁ほどに強固であるはずもなかった。


「さて、君が今日ここに来たのはそんなことを話すためではないだろう。アレクセイ、すまぬが人払いをしてくれ」


 アレクセイは頷くと、部屋の外に出てそのままドアの前を固めた。これで余程の急報がない限り、誰も部屋に入ることは許されないはずである。


 ジルはアルネラへの支持を要請するため、レムオンと一対一の交渉についた。

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