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シュバルツバルトの大魔導師  作者: 大澤聖
第四章 王位継承編
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103 暗殺事件の真相

 ヘルマン伯フランツの頭の中にある人名録によれば、ジルフォニア=アンブローズという青年は利用すべき重要人物の中に含まれていた。


 それは若くして上級魔術師になった実績もさることながら、第二方面軍司令官アムネシアの参謀として、彼女に影響力を行使できる人物だからである。アルネラ派にとって、大きな軍事力を保有するアムネシアはそれほど味方にしたい人物なのである。


「伯、祝うのはここまでにして、そろそろ今後の方針について話し合いましょう」


 ゼノビアの言葉を受けて、フランツは頭を切り替えた。


「そうだな。まずはアムネシア=ヴァロワを何としても味方に引き入れねばならぬ。ゼノビア殿、そなたとアムネシア殿は親しい間柄、なんとか出来ぬのか?」


 ゼノビアは、親友という関係を使って引き入れようとすれば、逆効果になりかねないことをフランツにも説明した。


「なるほど……軍人とは難しいものだ」


 フランツは綺麗に整えられた眉根を上げ、難しい顔をしている。彼のような生粋の貴族からすれば、人脈はむしろ積極的に使い使われるものなのだが、武人のなかには確かにそれを嫌う者もいる。それだけに一度味方にすれば頼りがいのある人物とも言える。


「そのことなのですが」


 ジルは、アムネシアを味方とする三つの条件についてフランツとゼノビアに説明した。


「ふむ。中立が許されない状況や、アルネラ様の勝算については帝国との戦争や今後の貴族たちの動向にもよるし、今すぐどうにか出来ることではないな。となると三の『ルヴィエ、あるいはルヴィエ派の失点』か」


 フランツはしばしの間思案した。


「奴らも我々のそれを探っているだろうが、もし何か見つけることが出来れば良い材料になるかもしれん。この際、証拠がなくても構わん。信憑性のある噂を流すだけで敵にとって打撃となる」


 フランツの言葉を聞いて、正攻法を好むゼノビアが不満を表情に表す。「証拠がなくても構わない」というところに、不正義を感じるのだろう。


「なにか糸口になるような情報を持ってないか?」


 問われたゼノビアとジルが考えこむ。


「どんな些細なことでも良い」


「実は……以前から気になっていたことがございます」


 ゼノビアがぽつりとつぶやいた。


「ほう、話してくれたまえ」


「アリア祭におけるアルネラ様の暗殺未遂事件のことです。エルンスト=シュライヒャーの証言により、以前の誘拐事件については帝国の仕業であることが分かっています。それゆえアリア祭での暗殺事件も帝国によるものと考えられていますが、私はそれに疑問を持っています」


 ゼノビアはとなりのジルに顔を向けた。


「伯もご存知のように、アルネラ様の命を助けたのはジルです。実行犯は秘密結社ドラゴンヘッドの男。問題は誰が依頼したのかということです」


「ゼノビアさんはルヴィエ派がやったことだと考えているんですか?」


 ジルの問いに、ゼノビアは慎重に言葉を選びつつ「告白」を始めた。


「その可能性があると考えている。もともと私は暗殺事件と王位継承争いが関係あると思っていた」


「何か証拠があるのかね?」


 内々の話し合いの場であるとはいえ、ゼノビアの発言は穏当ではなかった。


「確証はありません。ですがアリア祭の日、街やアルネラ様の警備は厳重でした。私自身、警備に加わっていたのでよく分かっています。しかし、そこへドラゴンヘッドが御者としてアルネラ様の身辺へと侵入し、犯行におよんだ。警備をかいくぐったというより、誰か手引した者がいるのではないか、そう思うのです」


「君はそれがルヴィエ派の人間だと考えているのか?」


「少なくとも帝国の人間に出来ることではないでしょう」


 ゼノビアの言うことは、背景としては頷けるところもあるが、何の証拠もある話ではなかった。


「ゼノビアさんは、あれから事件について調べていたんですね?」


 ゼノビアの言動から、ジルはそう確信した。


「ああ、任務の合間の時間を使ってだがな。私は姫を守ることができなかった。誘拐の時も、アリア祭の時も……」


 ゼノビアはその忸怩じくじたる思いから、一人で調べていたのだ。そしてその結果、容疑者とおぼしき人物を特定することができた。


「その男は、メイダム男爵リュッシモンの使用人、ゼラーという男です」


「メイダム男爵か、ブライスデイル侯と姻戚関係にある手下のような奴だな。なぜそのゼラーという男が怪しいと?」


「事件が起こる一週間前、警備を担当する近衛騎士団の詰所に、この男が出入りしていたという目撃情報がありました。その男も注意はしていたのでしょうが、私の部下が偶然目撃していたのです」


 ゼノビアはその男を探しだし、後をつけて身分と名前を特定したのだ。ジルには彼女の苦労がしのばれた。


「それでその男をどうする?」


 フランツはジルとゼノビアを見た。下手に手を出せば、敵陣営に情報を与えることになるかもしれない。


「ここは思い切ってその男と交渉してみるしかないのでは? 利益を約束して寝返らせましょう。証言を約束させればベストです。万が一交渉に失敗し、こちらが仕掛けたのを知られたとしても、それはその時のこと。アルネラ様の件でこちらが眼を光らせているという圧力を加えることができるでしょう」


 ジルはフランツに献策した。とにかくも、何かしら波紋を起こさなければアルネラ派はこのまま負けるだけだ。


「分かった。この件は君とゼノビア殿に任せよう。私はブライスデイル派の貴族の切り崩しに当たる」


 こうしてジルとゼノビアは、フランツと別れた後メイダム男爵邸へと向かうことになった。

*アリア祭での暗殺未遂事件 第48、49、50話を御覧ください


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