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卯と兎

作者: 猫乃つづり

卯には友達がいた。

兎というウサギがいた。

ある日、兎に頼まれた。

干支高校の授業が終わり、いつもの文芸部に向かおうとしたときだった。


「頼む、卯、練習に付き合ってくれないか!」

「うわっ!どうしたんだよ急に」


ズダダダと迫ってくるものだから卯は心臓が危うく止まりかけた。

ハァハァと深呼吸して兎が汗を拭うと手をパンっと叩いてお願いするのであった。


「頼む!レースの練習相手になってくれないか」

「なっなんでだよ!」


実際意味がわからなかった、兎は陸上部屈指のエースで全国、十二支陸上大会で優勝を納めた人物なのだ。

世界記録にはまだ及ばないが、この国、十二では新進気鋭の若きホープなのだ。

だから、なんでよりにもよって練習相手にしかも割には合わない卯に頼まれたのか、卯の頭の上にはハテナマークが浮かぶ。


「あっ違った!?」

「はっ?」


そして、すぐさま、変換する兎、切り替わる様は世界記録をこしたのではと思ってしまう。

兎は訂正し、正しく伝える。


「ちょっとここでだと恥ずかしいから、ちょっと来てくれ」

「なんだよ、ちょっと僕もう部活行かないと」

「いいからいいから、親友だろ?俺ら」


これが親友と呼べるのですかと親友というより深憂の気がしてきた卯はため息をついて返事をするのであった。


「はぁ、わかったよ」


そう答えると兎は嬉しそうに動物気のない、ところに向かうのであった。

部室の前は夕方の光がさしこまれていた。


「はぁ、遅いわねぇ卯、まっいいけど」


その部屋の奥では心配の声をあげる、声が聞こえたが、すぐさま読書本をめくる音に切り替わるのであった……


僕は兎についていく、季節は秋になり、夏の暑さは既に過ぎ去り、冬の到来を感じさせるかの如く、秋風が迫り、ビクッと僕のからだを震えさせる。


「早くしてくれよ兎」

「わかってるって、まぁここら辺だったら大丈夫だろう」


そして、兎はうってかわって話を本題にする。

心なしか、目は真剣で声色も先程とは真剣さを帯びていた。


「なぁ卯」

「なっなんだよ……」


僕の肩をガシッと掴まれる。

そして、壁際に寄せられそうな力加減に僕はドキドキしてしまうのである。

心臓の鼓動が心なしか早くなっている。

兎の頬もなぜか赤みを帯びていた。

えっこれはもしや?実はホモでした的なパターン

やめてくれよやめてくれー!

僕の心は不安でいっぱいになった。

汗も吹き出している、これは冷や汗だ。


「なっ卯……」


ゴクリと生唾を飲み込む僕、

動きたくても動きだせないので何もできない。

せめて心の覚悟でもしとくかと思ったその時、その続きの言葉はそうではなかったようで


「おっ俺、月卯先輩が……が好きなんだよ」

「えっ?」


僕は驚いた、まさか兎があの人のことが好きだなんて……

月兎先輩とは僕の二人しかいない文芸部の先輩で眼鏡が似合う美人さんだ、でも、僕は恋愛対象としては見ていない。

というより、クールでおしとやかでちょっと話しかけづらい。

なんであの人がいいのかなぁと思いつつも、人の恋沙汰に水を差すようなことをしたくないので聞くことにした。


「で、もしかして俺に月兎先輩役として引き受けて欲しいってことだろ」

「おぉ!よくわかったなさすが親友!」

「いや、そうだろうなって思っただけだよ」


単純すぎるよと言いたいけれど、僕は言葉を飲んで続けることにした。

早く終わらせたかったからだ。


「じゃあ、早速始めようかゴホンゴホン」

「えっと僕は……」


実際やってみるとどうすればいいか分からない、でもまぁとりあえず、僕が見てきた先輩を再現すればいいんだ。

戸惑いの声をあげたが、役になりきろうと演じてみることにした。

舞台は文芸部の部室、そこには一人の私がいた。

読み終わった本をおいて、書棚から読みたい本をさがしだす、まさに冒険をする冒険者のように、探していると突然ガララと開かれる音が聞こえる。


「貴方何者?」


私は訪ねてみる。

どうやら、卯君ではないらしい、卯君が来たら、お茶を買ってきてとお願いしたかったのだけれど、それは無理だと悟り、その正体を探る。


「はっはい!失礼します!日野橋兎です!好きです!付き合ってくださぁぁい!」


声高に響き渡る好きですと伝えられる声音に私は驚いてしまう。


「まぁ興味深いわね、男同士の恋の誕生かしら」


またしても、新たな人物に私はニヤリと笑ってみせる。

今日はなんだか、騒がしい日だ、そんな日も悪くはないわ、私は今日もってえええええ

僕は先輩の役になりきっていた自分から元の自分にかえる。


「いっいや!それは違っ!」


辺りを見ると、お願いしますと壁ドンをして、むふぅむふぅとしている、兎がそこにはいた。


「おい!離れろ、兎」

「あっすまん!卯……あっ」


言われてはっとすると兎は遅めにその主に気づく。

その主とは紛れもない月兎先輩ご本人だった。

冷たい目が心なしか一層強く冷たさを増していた、それに加えて、後方には記者らしき鼠達がパシャリパシャリとその瞬間を撮っていた。


「フムフム、これは興味深いっちゅね」

「そうでちゅね、これはとれだかありまちゅね」


キラリと眼鏡を光らす鼠共はそそくさと逃げるのであった。


「まっ待ってくれぇぇぇ!」


卯と兎は鼠を追いかけるために急いで向かうのであった。


「でも、BLものワクワクさせるわージュルリ」


先輩の違った一面を感じた気がするが、気のせいだろうと願いたかったのである。









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