九話
「もう一年か」
アウルはカレンダーをそう思った。あの本部前での宣言から一年が経った。この一年でカラミタ領は前例の無いくらいの発展を遂げた。商会本部がある町以外は大小合わせても村は三十ちょっとしかなかったが今は百を優に超えていた。それに伴う、戸籍登録や公共事業などで忙殺された。
税金が安く、希望すれば品種改良された麦の種を支給もらえる。賊は軍が定期的に討伐をしてくれる。治安も良く、犯罪が起きれば、法務官が公平に裁きを下す。
何故、税金が安くても治安や支援が出来るのかというとカラミタ商会を財源としているからだ。領民は税金が安いとその分、食べ物や衣服、住居にお金を回せるようになった。
衣服は羊毛から綿へ、食事は香辛料を使い、独自の発展を遂げていた。住居は人間以外の住人も多く、ドワーフの石材家屋やエルフの木造家屋など区画により、異なった姿を見せる。
商会は領政に組み込んだだけで営業自体は継続されており、領地で売買の殆どを取り仕切っているため、領民がカラミタ領で消費すれば商会の利益は上がり、即ち税収となるのだ。
こうして、噂を聞いた村人や難民が集まり、人口が爆発的に増加した。食料難もあったが備蓄を放出したことと炊き出しをしたことによりどうにかなった。
「兄さま、会議のお時間ですよ」
「もうそんな時間か」
ミラは十一歳となり、母から譲り受けた、綺麗な金色の髪やはつらつとした性格は領民からも愛されている。そして、魔法の才能だけではなく政の才能を開花させて、アウルを支えていた。
「無理をされたら困るのです。また、倒れられたら今度こそ、セヘル・リッターに乗るは止めてもらいます」
アウルは夏に執務とS・Rの訓練で体調を崩し、倒れてしまった。ミラは一時もアウルのそばを離れなかった。S・Rに乗るのは止めてと初めて、最愛の妹に懇願されたがそれだけは出来ないと言うと何かにつけて訓練を止めるように言うようになった。
頭を撫で、誤魔化し会議室に向かうのであった。後ろから頬を膨らませながら妹はついてきた。
「忙しいなか、集まってくれてありがとう。先ずは各部署の報告を聞きたいと思う」
商会の部長会議とあまり人は変わっていないが変わった所と言えば、武官筆頭のアルディートと文官筆頭のミラがよく揉めることだろうか
「アルディート殿、開発部の予算はもう少し削減できないのですか?」
「お嬢様、技術の進歩は未来の命を救うことになります。なので、削減は出来ないです」
「それは十分に承知しております。しかし、他の部署も費用の削減は実施しております。軍だけが特別というわけにはいかないのです。後、私は一部門の長のしてこの会議に参加していますのでお嬢様というのはやめてください」
「失礼しました、ミラ殿。後日、予算案を再提出します」
今回はミラの勝ちのようだ。それぞれの部門ごとによく揉めるがカラミタ領の発展を願うこその議論であった
「最後にモルト、報告を頼む」
「はっ。近い間にフォルス公国は我がヘルト王国に侵略する可能性が高いと調査の結果が出ました。武器商人を経由して旧式の銃をフォルス公国に流したことが効果があったと思われます」
「やはり、天才は違うな」
フォルス公国第一王子は戦略や戦術に精通していた。アウルはそのような天才なら銃の価値が分かるだろうと思い、カラミタ商会とは別の商会を作ることをモルトに命じ、銃をフォルス公国に流通させた。案の定、銃の価値に王子が気付き、大量に銃と弾を購入していた。
アウル達が流通元とばれないように銃を逆輸入をして、その有効性をピグロに伝えたが理解されなかった。
戦場となる地域は十五年程前にヘルト王国がフォルス公国を侵略し、公国の穀倉地帯を支配しているのである。王子はそれを奪い返し、王位継承を確実にしたいのだろうとアウルは考えていた。
「諸君、戦争が始まるぞ」
アウルは嗤っていた