八話
時は経ち、カラミタ商会本部の前には民衆が集まっていた。今か今かとアウルの登場を待ちわびていた。
アウルが用意された壇上に立つと歓声が上がった。
「この度、私はピグロ辺境伯の推薦により、男爵に授与されることとなった。そして、私はこれからアウル・カラミタと名乗ることにした」
アウルが男爵が得ることを発表したことにより、民衆の興奮は最高潮となった。
「よく聞いてくれ。私はこの場所に集まった人達に宣言したいことがある。
一つ、今年から税は一人当たり銀貨一枚とする。ただし、対象とするのは十五歳以上のみとし、十五歳以下の者は税を徴収しないものとする。
二つ、カラミタ商会を解体し、領政に組み込むこととした。これまで通りに商いは行うが収益は全て領地運営に充てるとする。
三つ、罪を犯した場合だが、新設した法務官が現地に赴き、裁きを下す。そして、殺人、強姦については死刑。その他の刑罰については公平に調査をし、判断する。村々で勝手に裁きを下すことは認めない。
四つ、以上のこと神聖契約にて、神に誓い、カラミタ領不変の法とする」
アウルの宣言が終わると神官が呪文を唱え、空中に巨大な魔方陣が出現した。これは神聖契約が結ばれた証であった。
「我らの手の中には未来がある。
共に見よう!果てなき夢を!
共に行こう!まだ、見ぬ明日へ!
共に創ろう!歴史を!
そして、証明するのだ!未来は己の力で切り開けると!」
アウルは壇上が下りるとそのまま、商会本部の中に入って行った。ある者は涙を流し、ある者は興奮に頬を染めた。そして、カラミタと叫ぶ声は日が落ちても続いていた。
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「兄さま、始まりましたね」
「あぁ、ようやくだ。五年前の復讐が!」
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一日たりとも忘れたことはない
父が母と自分を守り、死んだことを
非力な自分を恨んだ
カラミタ商会を潰したい他の商会が刺客を雇い、出先を襲ったと祖父から聞いた時は憎しみが心を満たした。すぐに祖父が動き、報復として関係者を全員、消した
それからは母の妊娠が分かった。暗くなっていた商会でも妊娠が分かり、久しぶりの慶事だったため、大いに盛り上がった
母は妹を産んだ。しかし、産後の肥立ちが悪く、床に臥せてしまった
しばらくして、母は難病に患ってしまった。薬を飲めば回復するらしいがピグロ領内や周りの領地に薬を無く、王都の支店から取り寄せたが間に合わなかった。母は死んだ
妨害があったのだ。王都を出るときに輸送隊を門番が薬が入った瓶を毒物と言って、許可が下りないと外に出せないと。その後も、通る領地でいろいろな妨害を受け、薬の到着は一か月遅れた
今でも母が最期の笑みと言葉が夢に出てくる
『強くなるのよ。アウル。ミラ、お兄ちゃんに一杯我が儘を言うのよ。二人とも笑ってちょうだい、貴方たちの笑顔が見たいわ』
あの時はミラも一生懸命に笑っていた。母は病気で苦しいはずなのに笑顔で逝った
葬式の後、祖父に書斎に呼ばれた。部屋には二人だけ、祖父はお前が成人した時にファルと飲むはずだった酒だと言い、グラスに注ぎ、目の前に置いた。飲めと短い言葉だった
まるで火を飲み込んだようだった。その後、紙の束を投げつけられた。
一枚、捲るとメプリ商会と書かれていた。父に殺し、祖父に消された商会だった。更に捲ると多くの名前があり、その後ろには決まって死亡と書かれていた
最後に調査の結果、メプリ商会は王家直轄の暗部に指示をされ、父に刺客を送り込んだと書かれていた
祖父を見ると頷き、言葉を続けた
今回の輸送の妨害も暗部の指示であり、カラミタ商会を潰すために王族の権限を持つ者が全てを仕組んだのだ。そして、儂とお前、ミラの命も狙っておると言った
両親を奪っただけではなく、残った肉親までも奪おうとするとする王家やそれに加担した貴族や騎士にへの憎悪が心を満たした
俺は爺さんに言った
『俺は逃げない。関わった全員の命を父さんと母さんの捧げるまでは俺は生き続ける』
それからは王国の闇と戦いながら力をつけ、とうとう奴らと同じ舞台に上がった
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「今日はもう寝な、ミラ」
「はい、兄さま。兄さまも早く寝てくださいね」
「あぁ、分かってる」
おやすみなさいとミラは部屋を出て行った。母の金色の髪と碧眼はミラへと濃ゆく受け継がれている、彼女には争いから遠くの所で愛する人と添い遂げ、両親の分まで幸せになって欲しいとアウルは星に願った。