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三十二話

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 頬を張る音が響き、作業員が手を止めて音がした方を見た。視線の先にはアウルとミラが居た。

「ミラ、叩かれた意味が分かるか?」


「わかりません。兄さま」


 ミラは赤くなった頬を押さえて、アウルを睨み返す。そして、分からなかった。艦隊は副領主としての権限を使い、責任者として艦に乗り、兄の窮地を助けた。


「軍艦にアビスポン領の方々を乗せたことがいけなかったのですが?しかし、王都の援軍は期待できず、実際に兄さま達は危機的状況でした。そして、艦隊の艦砲射撃で殆どの魔物が殲滅することが出来ました。私は間違ったことはしていません。」


「軍艦に他領の人間を乗せたことや艦隊を動かしたことはどうでもいい。俺はお前がこの場所にいることに腹を立てているんだ」 


 アウルは今までの冷静さが嘘にように怒鳴り声を上げた。アルディートすらアウルのあまりの剣幕で近づくことが出来なかった。


「私もカラミタ家の一員として南辺境に住むものとして、責任を果たしただけです。兄さまは私に鳥籠の鳥となれというのですか?」


「俺はお前に貴族のしがらみに囚われて生きて欲しくは無いんだ。そして、戦争は所詮人殺しだ。そんなこと、お前はしなくていい」


 アウルはそう言い残すと立ち去った。ミラに言った全てがアウルの本音であった。貴族としての責任や戦争よる殺人行為など自分のみが負えばいいとアウルは考えていた。


S・R(セヘル・リッター)の収容を急げ、一時間後には出発する。遅れた者は歩いて帰ることになるぞ」


「「了解」」


 カラミタ領海軍ロゼ級戦艦一番艦ロゼはS・Rの運用を前提に設計をされている。乗って来たアビスポン領軍は街道や周辺の魔物の処理、負傷兵の救護後に徒歩にて帰還するらしい。


「今回の行動は俺の事を思っての行動だがミラ自身が来る必要はなかった」


 ミラとは不仲になるかもしれないがミラの為と思い、怒鳴ってしまった。優秀な妹は幼い頃から手のかからない子で怒られることは殆ど無かった。


「俺も妹離れをしなければな」


 ミラに頼り過ぎている自分を恥じて、改善できるところを直していこうと考えた。波の音が心を慰めてくれているような気がした。



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