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家族は選べない

 俺が常日頃から考えているのは、いかにして人生を何事もなくやり過ごすか、ただそれだけである。

 だが現実は俺に優しくない。

 よく思うのだが、世界はその人が望んだのとは逆の姿を見せてくる気がする。

 例えばだが、日々の生活に退屈を感じ、何か変わった出来事に巻き込まれないだろうかなどと考える人には、決して彼らが望むような非日常が起こらない気がする。一方、現状に満足し、これといって変わったことを望まずただ日々を平穏に暮らしたいと考えている人に限って、平穏な日々を崩壊させるような厄介な出来事によく巻き込まれると思うのだ。

 さて俺は当然後者であり、日々を平穏に暮らしたいと考えている人物だ。そして日々を平穏に、というか何事もなく過ごそうと考えている俺に対して、世界は随分とひどいプレゼントをくれたものだと再認識した。

 家族は選べない。それがどんな変態的人物であろうと、家族である以上関わらないというわけにはいかないのだ。

「なるほどねぇ。いつかは犯罪に手を染めるんじゃないかと思ってたけど、まさかいたいけな老婆を蹴り殺すとは、さすがは我が弟だね」

「だから蹴り殺してないって言ってるだろ」

 姉に無理やり服を着せた俺は、とりあえず今朝からの出来事を話した。で、話を聞き終えての第一声が今の発言である。

 反論した俺に対して、姉は真面目な顔でさらに言い加える。

「でも実際に蹴ったんだよね、その死んでた老婆を。それで死体の横にはダンダリオンの名が書いてあったんでしょ? じゃあもう決定的じゃないか。ダンダリオンが老婆を殺したんだよ」

「ダンダリオンって誰だ。俺はそんな名前じゃねぇっての」

 俺は大きくため息をつくと、ガシガシと頭をかいた。

「でもやっぱりそうなるのか。姉貴みたいに半分頭のいかれたやつでもそう結論を下すんだから、一般人はなおさら俺のことを疑うだろうなぁ。んで、姉貴は俺がもし本当に人を殺してたとしたらどうする?」

「悪魔に生け贄として捧げる」

 即座に返答が返ってきた。

「警察に通報するわけではないのか。まあ刑務所に行くよりも大変そうだけどな、悪魔に捧げられたら」

 俺は再びため息をつく。さて、どうしたものか。俺はどうせ無駄だろうと思いながらも、姉に意見を仰いでみた。

「万が一、それでも俺が犯人じゃないとしたら、どんな説明がつくと思う?」

「そうだね。誰かが倒れてる老婆を見つけたから、出来心でついセーレの名前を書いたんじゃないかな」

「セーレって誰だ。いちいち俺の呼び方を変えるなよ。それで、聞いても分かるわけないと思うけど一体どんな奴が出来心で俺の名前を死体の横に書くと思うんだ。言っておくが俺はそんな人に恨まれるような生活は送ってないぞ」

「セーレなら十分にどこかで人の恨みを買ってそうだけど……。まあとりあえず今回の件に関していえば私かな」

「は?」

 ある考えが頭をよぎり俺は一瞬硬直した。そしてロボットのようなぎこちない動きをしながら姉を見つめる。

「あー、今のってあくまで俺の名前を書くであろうやつの心当たりとして自分を上げたんだよな?」

 姉は何のためらいもなく首を横に振る。

「違うよ、私が名前を書いたの。今日の黒魔術占いで、外出すると死体に出会うでしょうって出たから、久しぶりに外に出てみたの。そしたら本当に人が死んでたから」

「出来心で俺の名前を書いて立ち去ったと?」

「うん」

 とりあえず俺は姉の顔を全力で殴り飛ばし、家中に響き渡るほどの大声で叫んだ。

「ふざけんな!」

 ……家族は選べない。そして無視することもできない。放っておいても何かしら俺に余計なイベントを運んでくるのだから。


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