姉は引き籠り
妹が部屋から出て行ったあと、俺はしばらくの間ベッドの上で横になり考え続けていた。
「とりあえず誰かに話してみるか」
俺は考え抜いた末、そう結論付けた。
さて、いったい誰に話してみるか。部活動およびバイトをしている兄と弟はまだ家に帰ってきていないだろう。当然父もまだ会社で働いているはずだ。母なら一階で夕食づくりをしていると思うが、下手にこんなことを打ち明けたらかなり動揺して、夕飯どころではなくなるかもしれない。そうなると、このうちで話せるのはあと一人だけだ。
「あいつに話すのか……」
正直あれに話すくらいなら妹に話すのと大差ないと思うのだが。そんな風に考えながらも俺は立ち上がると、あいつ――もとい姉の部屋に向かって歩き出した。
姉の部屋の前までたどり着くと、一度深呼吸をした後に、ノックもせず扉をあけ放った。
「姉貴、入るぞ」
部屋の中は真っ暗だった。ただ、雑然と物が散らばっているなか、一か所だけものが捌けられ光り輝いている箇所がある。いわゆる魔法陣、というやつだろうか。とにかくそのような図が床に描かれており、その箇所だけが青い色で淡く光っている。
だが、魔法陣などには目もくれず、俺はベッドの上で丸くなっている謎の物体のもとまで床に落ちているあらゆるものを蹴飛ばしながら進んでいく。
謎の物体の前までたどり着いた俺は、今蹴飛ばしてきたものよりもはるかに力を込めて、謎の物体に蹴りを入れた。
「さっさと起きろ! 年中引き籠り女が!」
謎の物体――もとい布団をかぶった姉は、俺の蹴りをくらいベッドから落ちていった。
ベチャ。
ベッドから落ちた姉は謎の音を立てた後、もぞもぞと布団をはぎ、全裸で高らかに笑いだした。
「さすがは我が僕のアンドロマリウスだな。朝から良い一撃だったぞ」
俺は姉の顔に狙いを定め、空中とび膝蹴りを繰り出す。
「今は朝じゃねぇよ! それと服を着ろっていつも言ってんだろ! 後俺の名前はそんな変な名前じゃねぇ! お前の中二設定に俺を巻き込むんじゃねぇよ!」
そう叫びながら、俺は再度姉の顔面に蹴りを入れた。
俺の姉は引き籠りである。現在二十歳で、高校三年の頃に読んだラノベが原因で中二化し、それと同時に引きこもりデビューを果たした。なんでも読んだラノベの主人公が、引き籠りの黒魔導士だったらしい。
ちなみに、家で全裸なのは昔からである。
俺は考える。いや、考えるまでもない。こんな引き籠りで中二病で露出趣味のある変態ドM女に相談しようとするなど、真に愚かな考えだったと。