妹は神出鬼没
「ただいま」
家の玄関で俺はそう声をかけると、すぐに自分の部屋へと向かった。
俺の家は二階建ての一軒家である(俺の部屋は二階)。家族構成は父・母・兄・姉・弟・妹・俺の七人家族。なかなか一般には見ないであろう大家族だと思う。まあはっきり言って家族が多いからと言っていいことなどほとんどない。いろいろと煩わしいだけだ。
さて、部屋についた俺は荷物を床に置き、すぐにベッドに横になった。
手洗いとうがいをしたほうがいいな、という常識的な判断が頭をかすめる中、俺は考える。
「今日の出来事は家族に言うべきだろうか?」
心の声が口をついて出る。周りに人は誰もいないので何も問題はないが。
「なになに、どんな出来事があったの? もしかして学校でいじめられたりした?」
人がいた。
クローゼットの中から突如妹が出てくる。恰好が学校指定の(妹は現在中学二年生)制服であることから、おそらくさっき帰ってきたばかりなのだろう。
クローゼットの中から出現した妹に対し、俺は特に驚くことなく言い返す。
「まさか。俺をいじめようとするもの好きなんているわけないだろ。いじめってのは相手が嫌がるから面白いんだ。俺をいじめても何も面白くない」
俺は嫌いな奴は意識から消せるからな。そう付け足すと、唇を尖らせながら妹はため息をついた。
「お兄ちゃん。せっかくの高校生活なんだからもっとエンジョイしなくちゃ。いじめられるのだって、何も相手にされないよりはずっと有意義なことだと思うよ」
「万年いじめられっ子のお前が言うと重みが違うな。まあどんなにいじめられても、もとから頭のねじが飛んでるやつは何も変化しないみたいだが」
妹はぶすっとほほを膨らませ、肩をたたいてきた。
「ぶーだ。お兄ちゃんなんかには私の苦労は分かんないよーだ。私だって好きでいじめられてるわけじゃないのに。まあいいや、そんなことより何があったのか教えてよ」
まだそのことを覚えてたか。
俺は舌打ちし、手を振って妹に部屋から去るように迫った。
「別にお前が気にするようなことじゃない。さっさと部屋に戻れ」
「もう、お兄ちゃんのいけず。そうやっていつまでも私のことを子ども扱いして。私はただお兄ちゃんの役に立ちたいだけなのに。ま、お兄ちゃんが話したくないっていうなら、無理には聞かないけど。ああ私ってなんてお兄ちゃん思いのいい子なんだろう」
そういうと俺の部屋から出ようと、扉の前まで歩いていった。
扉が、ガチャリ、と開けられる音がする。
俺は体を起こし、部屋から出て行こうとする妹の方を見やった。
「それで、なんでお前は人の部屋のクローゼットの中にいたんだ」
妹は可愛らしくペロリ、と舌を出すと、何も言わずに部屋から出て行った。