帰り道におばあちゃんが死んでいた
ようやく長い長いホームルームが終わった。
俺は教科書を鞄に入れ、クラスの中で誰よりも早く教室を出た。
幸い、学校から出るまで誰からも話しかけられることもなく、速やかに帰路に就くことができた俺は、今朝来た道を意気揚々と戻っていった。
ふと、今朝出会ったものすごい形相のおばあちゃんはどうしただろうかと考えていると、そのおばあちゃんと出会った場所に、ちょうどたどり着いた。
すると、そこにはたくさんの人だかりができており、今朝会ったおばあちゃんが頭から血を流して死んでいた。
「……」
俺は考える。確かに今朝俺はこの場所で、今はもう死んでいる老婆に出会った。それは間違いない。何せ体格も服装もすべて一緒なのだから。加えて、俺は老婆のことを不慮の事故とはいえ蹴りつけたのだ。それもまた事実である。では、あの老婆を殺したのは俺だということになるのだろうか?
「……いや、それは違う」
万が一、今朝の俺の蹴りが原因で死んだのならば、この時間にはすでに救急車で運ばれて、病院に行っているはずだ。つまり、この老婆は俺と出会った後、最低でも数時間してから死ぬことになったはずなのだ。
では、いったいどうして老婆が死んだのだろうか?
「……帰るか」
俺は気づいた。いまだした結論からするならば、老婆の死に直接俺は関わっていないことになる。ならば、無理に頭を悩ませる必要はない。この事件は俺にとって、もはや何の関係もないものになったのだから。
俺は自分の考えに満足し、最後に老婆の方を向いて一度合掌した。と、その時、老婆のすぐ横に血で書かれた文字が存在するのが目に留まった。ふと目を凝らして見ると、それは俺の名前だった。
「ダイイングメッセージ? 俺の名前が?」
何かの間違いだろうと思い、目をこすって何度も確認したが、そこには確かに俺の名前が書かれていた。
「この世界には同姓同名の人物が最低一人はいるだろうからな。別に不思議なことではないか」
不思議なことでないわけがない。
何にしろ真実は分からない。
とりあえず俺は、何も考えずに一度家に帰ることにした。