悩み事はなくなった
家が燃えている。
目を疑うような光景だが、事実である。
ついさっきまで俺も中にいた、Aさんの家は、今完全に炎に包まれていた。
「まさか本気で放火するとは……」
「…………………………」
唖然とする俺と、意識が飛んだかのように口を半開きにしたまま立ち尽くすAさん。
ちなみにだが、黒ずくめの男たちと、その主犯である茶髪の男はいまだ家から出てきていない。
「……今日は俺の家に来ます? アリアさんの家、無くなっちゃったし」
「……そうさせてもらおうかな」
何とか言葉を吐き出すAさん。まあ今日一日の出来事は、Aさんの人生の中で最も衝撃的なことの連発だったに違いない。立ち直るまでにかなりの時間を要するだろう。
俺は野次馬がたくさん集まってきたのを感じ、この場を立ち去ろうと後ろを振り向く。と、そこにはまだAさんの家にいたはずの妹が、ふくれっ面で立っていた。
いつの間にか後ろにいた妹に驚き、俺は一歩後ろに下がる。妹はそんな俺と対照的に一歩距離を詰めてきた。
「お兄ちゃん、こんな女を家に誘うなんて何考えてるの。こいつのせいでお兄ちゃんはすっごく危険な目に遭ったんだよ。いくらお兄ちゃんでも人が良すぎるよ」
「そうは言っても、実際アリアさんの家がなくなっちゃったしなぁ。俺(というかお前)にもいくらかの責任はあると思うんだよ。まあ一晩宿を提供するくらいだったら別に構わないだろ」
妹はどんどん頬を膨らませ、なんだかすごいことになっていく。
そして頬が破裂する(しぼむ)と同時に、Aさんの手を無理やり取り、その場からの逃走を図った。
唖然とする俺に向けて、妹が捨て台詞を残していく。
「お兄ちゃんにこれ以上、私以外の女の人は近づけさせないんだから! 彼女なんて絶対作らせてやるもんかぁ!」
俺は呆然と妹の後姿を見送ってから、一人自宅に帰り始める。
結局、さっきの男たちはいどうなったのか? まあもはや俺には関係ない。いろいろと予想外の事態に巻き込まれたが、最近俺を悩ませ続けていた問題は完全に解決したのだ。
俺は晴れ晴れとした気持ちで、家路をたどっていった。




