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とりあえず事なかれ主義  作者: 天草一樹


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最悪の救出方法

 突如部屋の中に充満してきた煙に驚き、俺以外の全員が驚きの表情を浮かべる。

「おいなんだよこれは! 火事なのか!」

 黒ずくめの男たちが慌てふためき、部屋の中をあたふたと動き回る。

 そんな彼らを落ち着けるように、茶髪の男が冷静な声で命令した。

「今すぐ下の階に下りて、火元を探ってこい。もしすぐに消火できる程度であれば消火しろ。それが無理なようならさっさと引き上げるぞ」

 年下であろう茶髪の男の命令に素直に従い、黒ずくめの男達三人は急いで下の階に下りて行く。

 男たちが去っていくのを見届けると、俺は静かに口を開いた。

「計画外のことが起こったみたいだな。それで、この後はどうするんだ。急いで逃げないとお前も焼け死ぬかもしれないぞ」

 茶髪の男は特に動じた様子も見せず、淡々という。

「別に焼け死ぬぶんには構わないさ。その代わり君たち二人も道連れにするけどね」

「どうやら俺も殺害対象に含まれたらしいな。まあ別にいいけど」

 そんな話をしている間も、どんどん煙が部屋の中に充満していく。

 さすがに茶髪の男も眉を顰め、不審げに下の階を見始める。煙は勢いを増すばかりなのに、黒ずくめの男たちが戻ってくる気配はない。

「お前を置いてさっさと逃げたんじゃないか」

 俺はそんな茶々を入れてみる。

 茶髪の男は不快気に俺を見た後、下の階の様子を窺おうと部屋の外に出た――瞬間、突然痙攣したように体を振るわえたかと思うと、その場に倒れ込んだ。

 俺の隣でAさんが驚いたように固まっているのが分かる。

 俺は大きくため息をつくと、そこにいるであろう人物に話しかけた。

「いい加減出てこい。というかほんとに放火したわけじゃないよな? この煙吸って大丈夫なのか?」

 呼びかけられた人物――まあ言うまでもないと思うが俺の妹――は、照れたように笑いながら部屋の中に入ってきた。

「えへへ、大丈夫だよ。下の階でサンマを焼いてただけだから、火事にはなってないよ。まあこの後、もしかしたら本当に火事になっちゃうかもしれないけどね」

 手にスタンガンを持って登場した妹は、可愛らしく舌を出しながら、そんなことを言ってきた。

 ただただため息をつくしかない。警察に通報してくれればそれで十分だったのに、まさかこんな犯罪じみた行為で助けに来るとは。

 隣で呆気にとられた表情のAさんを放置して、俺と妹は話を続ける。

「いくらなんでもこんなことしなくてよかったのに。大体スタンガンを持っているとはいえ、助けもなしに一人で来るなんて、そんな危険なことするなよ」

「だって××するのに邪魔が入ったら困るじゃない。私の大事なお兄ちゃんに手を出したことを後悔させてあげないと」

「まあ、ほどほどにしとけよ」

 いきなりこんな非日常に入れられたため、俺の感覚も鈍っているのかもしれない。妹の行為を止める気にはなれなかった。

 そこでようやく俺はAさんの方を振り返り、声をかける。

「じゃあ早く脱出しようか。腰を抜かして歩けないなんてことはないよね」

「う、うん……」

 そして俺とAさんは、妹に後始末を任せ、家から避難した。

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