いまだに助けが来ない?
俺が驚いた表情で茶髪の男を見ていると、相手もこちらに気づいたらしく、眉をひそめながら言った。
「これは、不味いですね。確かに彼は僕たち同様、この女にはめられていた生徒です。それを、間違えてとはいえこんなところで……」
黒服の男たちが不安そうな顔で茶髪の男を見る。
黒服の男たちの年齢は、顔が隠れているためによく分からないが、声からすると二十は最低でも超えていそうだったが。たかだか高校生に指示を仰いでいる風なのはどういうわけだろうか?
俺はいましばらく沈黙を保つ。茶髪の男がどう対応するのか興味があったし、いまだに妹からの助けが来ないので少し焦ってもいた。
「まさか警察に通報してない、なんてことはないよな……」
男たちに聞かれないよう、小さな声でひとりごちる。
そんな中、茶髪の男は難しげな顔で思案していたかと思うと、ふと決意したように俺を見つめてきた。
「君も僕たち同様、彼女から脅されている被害者なのでしょう。でしたら、これ以上危害を加えるわけにもいきません。そこでお願いなのですが、僕たちの目的のお手伝いをしてはくれませんか?」
「……全く状況が把握できていないんだが。それって、俺にアリアさんを殺す片棒を担げって言いたいのか?」
「平たく言うとそうなります。あなたも彼女にはひどい目に遭わされたのでしょう? 僕たちに協力をしてくれませんか」
俺は一度横を向き、黙ったままのAさんを見た。Aさんは顔を青ざめさせ、体を震わせているばかり。これから殺されるというのに、反論もせずに黙ったままということは、言い訳の余地すらないと知っているのだろうか。
茶髪の男は、そんな俺の様子を見つめながら言う。
「安心してください。警察に捕まるようなへまはしません。あなたが僕たちに協力をしたことで、あなた自身が不利になるようなことは絶対にありませんから」
俺は考える。いや、考える必要なんてないだろう。仮にこいつにどんな事情があろうとも、すでにこいつは壊れちまってるのだから。
俺は茶髪の男を見つめ返しながら聞く。
「二つ、質問させてくれ。なんでまだ高校生のお前が、お前より年上であろうやつらの中でリーダーになってるんだ? それから、どうしてここまでのことをしているのか教えてくれ。普通に考えて、いくらはめられたからって、人を殺すようなことはしないだろう?」
茶髪の男は、表情を変えることなく答える。
「簡単な話です。僕が彼女から最もひどい仕打ちを受けたから、彼らのリーダーになってるんです。彼女を殺す理由に関しては、もっと簡単な話ですよ。僕の最も大切な人が彼女たちのせいで死んだから、その復讐です。彼女が一体何をしたか、教えてあげましょうか?」
茶髪の男がそう話す中、俺の目にあるものが映ってきた。その意味を理解すると同時に、俺は今まで一番の緊張を覚えた。
俺は何とか顔に出さないよう心掛けながら、茶髪の男に言い返す。
「いや、興味ねぇよ。それから一つ言っとくけど、お前が誰かを殺すだけならともかく、その目的のためにお前以外のだれかを人殺しにさせようとした時点で、お前は十分に彼女以上のクソ野郎になってるから」
俺の言葉が言い終わる前に、たくさんの煙が部屋の中を侵食し始めていた。




