救助はまだ来ない
俺とAさんを部屋の隅に座らせ、黒ずくめの男たちはスマホを使ってどこかに電話をかけ始めた。
俺は男たちに聞かれないよう、小さな声でAさんに話しかける。
「これっていったいどういう状態なんだ」
「……」
Aさんは口を閉じたまま、何も答えようとはしない。
どうにも怯えて声も出せないという状態ではなく、単に話したくないことだから口を閉じているといった表情をしている。
俺は小さくため息をつくと、ぼそりと呟いた。
「話してくれないなら、直接あの男たちに聞くけど、いいのか?」
なおもAさんが何も言わずに口を閉じていたので、俺は前言通り男たちに話しかけた。
「すいません。これって今どういう状況なんですか?」
俺がそう質問すると、男たちのうちの一人が、ナイフを俺に向けながら言ってきた。
「ふざけたことを抜かすな。自分の心に聞いてみればわかるだろ」
「いや、さっぱりよく分かんないんですけど……」
なおも俺が食い下がろうとすると、男は俺の額にナイフを突きつけた。
「これ以上無駄口をたたくな。少しでも長く生きていたいならな」
男のまったく話を聞こうとしない態度に苛立ってきた俺は、
「だから理由を教えろって言ってんだろ」
とどすの利いた声で男に言い返した。男は俺の迫力に押され、少しだけ後ろに下がると、怒ったように声を荒げて言ってきた。
「ふざけるな! お前もこの女の彼氏なら、自分が俺たちに何をしたのか知らないわけないだろ! しらばっくれるのもいい加減にしろ!」
「アリアさんの彼氏?」
俺は横目でAさんを睨む。Aさんは俺と目を合わせないように下を向いたまま沈黙を続けている。
なんとなく事態を理解してきた俺は、とりあえず弁明を試みた。
「ちょっと待て。俺はこの女のクラスメイトではあるけど彼氏じゃないぞ」
「嘘をつくな。彼氏でもなければどうして平日のこの時間にこの女の家に来た。何か深い関係でもないとあり得ないだろ」
「む……」
俺は言葉に詰まり、口を閉じた。確かに傍から見ればそう思えるのは事実。このことをうまく説明するのはかなり難しい。せめて昨日、Aさんが電話でなくメールで俺に謝ってくれて入れば誤解を解くことはできたかもしれないが……。。
俺は考える。この男たちはAさんに恨みを持った男たちであるようだ。しかも相当強い恨みを。先の発言からすると、痛めつけるだけでなく殺すことまで確定しているようであり、かなりまずい。妹の救助が来るまでに殺される可能性も十分ある。
何とかこの逆境を覆そうと、俺は再び口を開いた。




