いついかなる時も平常心
「じゃあ俺はアリアさんと話してくるから、お前は外で静かに盗聴でもしてろよ」
「はーい。でもお兄ちゃんがピンチになったらいつでも助けに行くからね!」
「ああ、万が一ピンチになったら助けに来い」
自分でも変な会話だなと感じつつ、俺はインターホンを押す。Aさんが出るのを待つ間、俺はAさんの家を観察した。Aさんの家は俺の家と同じような一軒家だ。二階建てのようで、なかなか高級そうなお宅である。とはいえ、ところどころ傷や汚れがあることから、それなりに長い年月この地に建っている様子を窺わせた。
しばらくして、
『……はい』
とAさんの声がインターホンから聞こえてくる。どうやらすでにAさんが死んでいるというパターンは避けられたようだ。
俺は少しホッとしながら言う。
「××だけど、約束通り家まで来たよ」
『……ちょっと待ってね』
数秒後、玄関のドアが開きAさんが顔をのぞかせた。
「××君、来てくれたんだ。それじゃあ中に入って」
心なしか青ざめた表情のAさん。もしAさんの話が本当なら、理由はよく分からないが命の危機らしいから当たり前だろうか。
俺はそこまで気にせずに、Aさんに勧められるまま家の中に入って行った。
「私の部屋は二階だから」
そう言ってAさんは黙々と自分の部屋に向かっていく。
俺は「お邪魔します」と一声かけると、Aさんのあとをついていった。
今更だが、両親は家にいないのだろうか? ほとんど人の気配がないことに不審を覚えつつも、Aさんの部屋へ到着。
俺が部屋に入った瞬間、
「動くな。騒がずにじっとしていろ」
と言われ、ナイフを突きつけられた。
目だけを左右に動かし、Aさんの部屋の中を見回す。
部屋の中にはAさんと、全身を黒づくめの服で覆った見るからに怪しい男が三人。黒ずくめの男たちは、それぞれ手にナイフのようなものを持っている。Aさんもそのうちの一人にナイフを押し当てられていることから、彼らがAさんの仲間ではないことが見て取れた。
俺は一通り状況を理解すると、考えた。
これは俺の人生の中でも五本の指に入るくらいの危機なんじゃないかと。
残念ながら俺は武術に関してはからっきしであり、屈強かどうかは黒い服に覆われていてよく分からないが、三人のナイフを持った男に勝てるような力は持ち合わせていない。
非常に不本意ながら、今俺ができることは、この状況を盗聴しているであろう妹が助けを呼んでくれるまで、男たちを刺激しないようじっとしていることだけである。
「玄関先での会話がフラグだったのか」
俺は男たちに聞こえないくらいの小さな声で、そう呟いた。




