夜中の着信は不吉なるや
「疲れた……」
俺はベッドに横になると、そう呟いた。
今日一日だけで普段の一週間分の体力と精神力を使い切った気がする。
そもそもの俺の目的に関しても、何だか宙ぶらりんな形で終わってしまった。
目的の人物を見つけたはいいが、結局先手を取られた形になったし、こちらからの質問はあまりできなかった。まあ真実かどうかはともかく、あの日あの場所で俺が老婆を蹴り飛ばして以降何があったのかは、不明な点もあるものの一応分かった。
それに、書記さんが俺に対して今後変に絡んでくることがないということも分かったので、案外にも俺にとっては悪いことばかりではなかったのかもしれない。
俺はつらつらと頭の中で今日のことを振り返りつつ、徐々に眠りへと落ちていく……。と、突然俺の携帯からぶるぶると震えだした。
俺は嫌な予感を感じつつも、ベッドから起き上がり携帯を手に取る。
いつもは鳴らずの携帯を貫いている俺の携帯が鳴るのは、たいてい何かしらのトラブルを告げるベルのようなものだ。
どうやらメールではなく電話のようで、いまだにぶるぶると震え続けている。
名前の欄は非通知になっており、ますます出る気が失せてくる。が、意を決して電話に応じる。
「どちら様でしょうか」
『××君と同じクラスのアリアです。この前はごめんね、脅そうとしたりしちゃって。少し魔が差したというかなんというか……。××君の妹さんにも私が反省してるって伝えておいてね』
「それで、用件は何」
俺は少し苛立たしくなり、ややきつめの口調になって言う。正直Aさんが本気で反省しているとは思えないし、仮に反省していたとしても、電話で告げられた程度じゃ許す気にならない。器が小さいのかもしれないが。
『うん、実はお願いがあるんだ。明日のお昼ごろに私の家に来てほしいの』
「明日のお昼って、学校を休んでお前の家に来いって言ってるのか?」
『うん。図々しいお願いだっていうのは分かってるけど、私の命にかかわることだから……』
俺は考える。またしても厄介なフラグが現れた。
Aさんの要求を無視して普段通り学校に行くか、それともAさんの要求通り学校を休みAさんの家に向かうか。
本音を言えば要求を無視して学校に行きたいところだが、『命にかかわる』などと言う死亡フラグが立っていそうな言葉をAさんは発している。もしこれで俺がAさんの家に行かずに、本当にAさんが死ぬことにでもなったら、さすがに寝覚めが悪い。
俺自身もAさんに聞きたいことがあったなと思い出し、結局彼女の要求を呑むことにする。
「分かった。じゃあ明日の十時くらいにアリアさんの家に行かせてもらうよ。ただ、住所とか知らないから行き方は教えといてね」
『ありがとう……。じゃあ後で行き方はメールするから、また明日、ね』
そう言って、Aさんは電話を切った。
俺はベッドに戻りながら、不吉なことを考える。
明日までAさん生きてるかなあ、と。




