本来の用事は一瞬に
お詫び。
間違えて違う構想の話を載せてしまっていました。
本来のはこっちです。
読んでいる人はほとんどいないと思いますが、誠に申し訳ありませんでした。
妹の登場により、突如魔界とかした姉の部屋。
口を開いた瞬間に何かしら危険な事態へと発展しそうな予感がするが、逆に何も口を開かずに黙っていてもやばいことになりそうな状況。
今いるメンバーの中で唯一この魔界を元に戻すよう頼める人物がいるとすれば、それは俺自身に他ならないのだろうが、頼み方を間違えたら俺の人生はここで終わりを迎えるかもしれない。
しかし、いつまでもこの状態でいるわけにもいかない。
俺は決死の覚悟で、震える唇から言葉を発した。
「その、今度から……」
「皆さん一体何してるんです?」
突如部屋の外から、呆れ声をにじませながら弟が口をはさんできた。
妹による姉部屋の魔界化が行われている最中に、どうやら帰ってきていたらしい。
弟は部屋の中を見回すと、すぐにどういう事態になっているかを察知したらしく、ため息を吐きながら妹に呼び掛けた。
「イルマ、あんまりやりすぎるなっていつも言ってるだろ。いったん深呼吸してから兄さんの顔を見てみなよ」
妹は目をぱちくりさせながらも、弟の言うことを素直に聞き、大きく深呼吸をした。
深呼吸を終えると、ふと我に返ったかのように妹はきょろきょろと部屋の中を見回し始める。
どうやら弟の言葉で完全に正気を取り戻したらしい妹は、ペロリと舌を出しながら可愛らしく謝罪を口にした。
「もしかして、私やりすぎちゃってたかな? ごめんね、お兄ちゃん」
「謝って済むなら警察はいらねぇよ……」
いつもなら妹の顔面めがけて殴りを入れているとこだが、今はまだ妹に対する恐怖の感情が消え去っておらず、そう呟くだけにとどめた。
妹がひゅるひゅるとワイヤーを回収していくのを見ながら、弟があきれ顔で俺に聞いてくる。
「何があってこんなことになったの? まあ兄さんと同じ高校の制服を着ている女の人がいるし、なんとなくは想像つくけど」
「いや、まあ、その……。とりあえずマジで助かった。ほんと有難う」
俺はそう言って、弟に対して心の底から頭を下げると、書記のもとに素早く近づいた。
いまだいつもの無表情に一切の変化はないが、うっすらとだが額に汗をかいている。
表情にこそ変化はなかったが、実際はかなり緊張していたらしい。
「えーと、大丈夫だったか」
「大丈夫です」
言葉こそ強がっているが、ワイヤーがのどに絡まっていたためか、かすれ声になっている。
「それで、結局あの話しについて姉に聞いてないけどいいのか?」
元の用事であった、老婆の死体の横に俺の名前が書かれていた件を姉に確認すること。理解不能な超能力談義をしていたために、いまだ聞けていないままである。
書記は小さく頷くと、ようやく部屋の隅から戻ってきた姉に質問した。
「つい最近殺された老婆の死体の横に彼の名前が書かれていたのは、あなたが書いたからなんですか?」
「うん、そうだよ。ついでき心でやっちゃったの」
「そうですか。では、失礼します」
書記はそう言って、足早に姉の部屋を出て行き、そのまま家から立ち去ってしまった。
「……」
沈黙。
今までの数時間はいったい何だったのだろうか。ただただ、俺だけがひどく無為な時間を過ごした気がして、無性に悲しくなった。




