変態は誰に対しても変態
「姉貴いるか? 入るぞ」
一度申し訳程度にドアをたたいた後、そう言って部屋の扉を開ける。
姉の部屋は普段とあまり変わらない様子で、先の俺の部屋ほどではないが散らかった様相を呈している。暗くなった部屋の一部分から、魔法陣による謎の光が生み出されており、そこで姉は全裸状態で瞑想していた。
今度は何の躊躇いもなく部屋の中に入っていき、床に落ちている謎の物体を蹴飛ばしながら瞑想中の姉のもとまで行く。
どうやらかなり深い瞑想に入っているらしい姉は、俺の接近に気づく様子もなく、口からよだれをたらして瞑想を続けている。
俺はそんな姉の顔に向けて、無言で回転蹴りを放った。
グバッ、という奇怪な音を上げながら部屋の隅まで姉が吹っ飛んでいく。
俺も書記もしばらくの間、言葉を発さずに吹っ飛んでいった姉を見つめていると、不敵(不気味)な笑い声とともに姉が急激に飛び上がった。
無事冥界からの帰還を果たした姉は、俺の姿を認めると高らかに告げてきた。
「我が僕ハウレスよ。今日も最高の魔力を我に注入してくれたようだな。今から一週間は新たな魔力を補給することなく、この永久の牢獄で過ごすことができそうだ」
「引き籠り宣言してないで早く家の外に出て働け。それと服を着ろっていつも言ってんだろ」
俺はごみを見るような目で姉を一瞥した後、嫌々ながら書記に姉のことを紹介した。
「これがうちに住み着いている自称黒魔術師の変態だ。生物学的には俺の姉にあたるらしいが、多分何かの間違いだと思う。ただ、さっきの話で出てきた姉ってのはこいつのことで間違いない」
俺は床に落ちていた服らしきものを姉に投げつけながら言う。
書記はさすがというべきか、この変態女を見ても特に驚いた様子は見せなかった。それでもここまでの変態に会ったことはあまりなかったのか、少し興味深そうに目を細めながらじっくりと観察していた。
何とか服を着た(羽織った?)姉は、その視線に気づくと思いがけないことを口走った。
「もしかして君がトマトなのかな?」
首を傾げながらそう言った姉を、俺は驚きとともに見つめた。もちろん、姉に書記のことは何も話していない。というか書記の名前なんてさっき知ったばかりである。
実は二人が知り合いだったんじゃないかと思い、二人の顔を交互に見まわす。が、書記が逆に俺のことを見つめてきたことから、それも違うと思い至った。表情こそ特に変化はないが、書記の視線を訳すると、「いつの間に姉に連絡を取っていたのですか」といっているように思えたからだ――気のせいかもしれないが……。
俺がなぜ書記の名前を知っていたのか姉に聞くと、
「黒魔術占いに、今日我の部屋にトマトがやってくるだろう、と出たからだ」
という回答をもらった。
一般常識の範疇からすると、あまりに答えずらい返答をもらい俺は頭を抱える。
さて、どう話を切り出せばいいか。その前にもう少し黒魔術占いについて聞いておいた方がいいかと悩んでいると、唐突に書記が口を開いた。
「あなたは超能力というものを信じますか?」
まるで宗教の勧誘のような言葉を放つ書記。
書記の言葉を聞き、何やら不敵に微笑む姉。
呆気に取られている俺をよそに、超能力者対黒魔術師の舌戦が始まろうとしていた。




