家に人を呼ぶのは(気)恥ずかしい
手を頭に当てて、悩まし気にしている俺を無視して、淡々と書記は話を続ける。
「それでは、なぜ死んでしまった老婆の横にあなたの名前が書かれていたのかの理由を教えていただけませんか」
厄介な話を出され、俺はぎくりと身をすくめた。
真実を語るとなると、あの変人である姉について話さなければならない。ただ、話したからといってその存在を認めてもらえるかも怪しいし、余計疑われる原因にならないとも限らない。とはいえ、自分的にはその件はすでに終わった話であり、他人に対して説明するうまい言い訳を考えるのを忘れていた。
この場で適当に取り繕うのも、分からないと言って対応することもできるが、どうにも危険な気がする。いくらなんでも俺が老婆を殺したという結論には至らないと思うが、何らかの関与はしていると思われ、この後も付きまとわれる可能性もある。
かなり気は進まないが、結局ありのままを話すことにした。
姉が黒魔術にはまっていること。その日の黒魔術占い(?)に外に出れば死体と出会えるとかのお告げがあり、外に出てみたらあの老婆の死体を発見したこと。その時いたずらっ気を起こして俺の名前を横に書いたこと。
俺がそれら姉の意味不明な行動について話し終わると、思いもかけないことを書記が言ってきた。
「なるほど、ずいぶんと変わったお姉さんをお持ちなのですね。それでは、今からあなたの家に行って確認させてください」
「は、今から?」
俺が驚いてそう口にすると、さも当たり前のように書記はうなずいた。
「もちろんです。あなたがとっさに今の嘘をついた可能性がありますから、姉に口裏を合わせるよう頼まれる前に確認する必要があります」
「いやいやいや、もし嘘だったらもっとましな嘘をつくって」
「私はあなたの人となりを知りません。常にそういった嘘をつく虚言癖の持ち主かもしれませんし、あえて真実味の無い話をすることで私を納得させようとしているのかもしれません。どちらにしろ、真実を知るためには今からあなたの姉に会うのが一番だと思います」
「くっ……」
悔しいが書記の言うことは一理ある。俺が書記の立場だったら同じことを言ったかもしれない。ただ、こと今回に関してはまぎれもない真実であるから厄介だ。
あんな生きる黒歴史のような存在を他人に見せるなんて、土下座をするよりもつらいことだ。
何とか家に来ることだけは阻止したいと思うが、今の書記のスタンスからすると、俺と姉に会話の機会を与えるつもりはなさそうだ。
俺はひとしきり悩んだ末、他言無用を条件に、書記の提案を呑んだ。




