演技か超能力か
「あなたが老婆を蹴って逃げた後、私はその老婆に駆け寄って無事かどうかを確かめました。私が見た限りあなたが老婆を蹴った部位は、肩のあたりのようでしたので、まず腕が折れていないかどうかを確認しました。診てみたところ、特に腕が折れている気配はなったので、立てるかどうか声をかけたのですが、老婆は苦しそうに口をパクパクさせるだけで何も言葉を発しませんでした。もしかしたらのども痛めているのかと思い、病院に連れて行こうと私は彼女に肩を貸しました。しかし、どういうわけか彼女の足は地面に押さえつけられているかのようにピクリともせず、結局立ち上がらせることはできませんでした。私は携帯電話というものを常に携帯してはいなかったので、救急車を呼ぶために近くにいる人に連絡してくれるよう頼みに行きました。不運なことに、近くにだれも人がいなかったため、少し離れた通りまで人を探しに行き、連絡をお願いしたのです。ところが、連絡が終わって私が彼女の元に戻った時には、すでに彼女はその場から立ち去っており、跡形もなくなっていました。私が助けを呼びに行っている間に、通りかかった別の誰かが老婆を病院に連れて行ってくれたのだと思い、私は先ほど連絡を頼んだ人物にもう大丈夫であると告げ、学校へと急ぎました。そしてその日の授業が終わり、行きと同じ道をたどり家に帰っていく途中、今朝老婆を見た場所にて、その老婆が死んでいるのを目撃したのです。そして、死体となった彼女の横に、あなたの名前が書かれているのを見つけました。そこで、生徒会長に手伝ってもらい、あなたのことをさりげなく生徒会室に呼び出してくれるように頼み、今に至るのです」
「……そうですか」
長かった。突然語りだしたと思うと、あの日のことを随分と丁寧に説明しだした。まあ、聞いて損な話ではないのだと思うが、一方的に話し続けられるというのは精神的にきついものがある。
今の話の中に、疑問となる点がいくつか存在したが、それは後回しにして書記の話を先に聞くことにする。
「俺が今ここに呼ばれたわけは分かったよ。それで、今の話のどこに超能力が関係していると? それとさりげなく俺を生徒会室に呼び出したかったんだったら、生徒会長に頼むのはどうかと思うんだけど。ここに来るまでにだいぶ目立っちゃったし」
書記はにこりともせずに言う。その全く変化しない表情は、まるでからくり人形かロボットみたいだ。
「私には生徒会長以外に頼みごとをできるほどの人がいなかったので。超能力が今の話のどこに関与しているのかは分かると思いますが。老婆の足が地面にくっついたように全く動かなかったこと。そしてその老婆が私が助けを呼びに行った数分の間に現場から消え去ったこと。この二つに超能力が関与していると思うんです。主に念動力系の」
「俺は念動力とかじゃなくて、単純にその老婆が演技してたんだと思うんだが。まあ理由は分からないけど」
俺が控えめにそう言うと、書記はこくりと頭を上下させた。
「なるほど、そういう考えもできますね」
驚くほど素直に考えを改めた書記に呆れつつ、俺は自分の半生を振り返る。今までにも面倒な人にあったことはあるが、最近の遭遇率は今までの比じゃない。俺はいったいどこで選択肢を間違えたのか。俺の理想である、何も起こらない人生。
叶うのは、いつになることやら。




