目には視えねどもそこにいる
突然の爆発音に驚き、俺は急いでベッドから起き上がった。
部屋中に謎の煙が発生しており、煙の発生原因であろう姉の姿は全く見えない。
俺は先ほどの姉の位置からあたりをつけて、そこに飛び蹴りを入れた。
「つい数秒前に迷惑はかけないようにするって言ったばっかだよな!」
飛び蹴りは成功。
姉が部屋の隅にぶっ飛んでいくのと同時に、部屋に充満していた煙も突然薄れていき、消えた。
俺が肩を怒らせながら倒れ伏した姉を睨んでいると、姉は何事もなかったようにむくりと起き上がり、不満げな表情で文句を言ってきた。
「できるだけ迷惑はかけないと言ったのだ。この程度は許容範囲だろう」
ぬけぬけと俺にそう言うと、今度は部屋の一点をじっと見て満足げに笑いだした。
俺が気味悪そうに姉を見つめていると、ぴたりと笑うのをやめ、真顔で俺に報告してきた。
「我が僕キマリスよ、ついに使い魔の召喚に成功したぞ」
「はぁ?」
俺はいい加減姉の非常識な振る舞に耐え兼ね、そろそろ本気で更生させた方がいいんじゃないかと考えていたのだが、姉の突拍子もない言葉を聞き一瞬思考が停止した。
「使い魔の召喚に成功ってどういうことだ? いよいよ頭がおかしくなったのか? まあ元から壊れてたわけだけど、今度こそ完全にぶっ壊れたか」
姉は不機嫌そうに顔をしかめると、何もない空間を指さしながら言う。
「キマリス、お前の目には見ないのか? 確かにそこに我が呼び出した使い魔がいるではないか。我が本来召喚する予定だったケルベロスに比べたら随分と小さいが、立派な悪魔だぞ」
「ケルベロス召喚する予定だったのかよ……。こんな何もない家に冥府の番犬を呼び出してどうするつもりだったんだ。つうかケルベロスもお前の暇つぶし目的で呼ばれたら仕事に使用をきたすし迷惑だろ。いや、そんなことより、マジで頭ぶっ壊れたのか? そこにはなんもいねぇだろ」
謎の煙が発生していた以外、この部屋には他に変わったものは出現していない。
俺が疑惑の目を姉に向けていると、姉はいよいよ気分を害したらしく、髪の毛を逆立てて何かに命令した。
「ふん、我を信じないというなら別に構わん。その代わり、我の言葉が真実だったと謝りに来るまでは使い魔をこの部屋に住まわせてやる。我が使い魔よ、この部屋の中なら好きに暴れてくれて構わんからな」
姉はそう言うと、速やかに俺の部屋から出て行った。
姉が出て行くのを確認すると、部屋の扉に鍵をかけ、俺は大きくため息をついた。
「何が使い魔だ馬鹿らしい。悪魔なんてものが存在するわけないだろ」
そう言って俺がベッドに横になろうとした途端、どこからともなくひきつったような笑い声が聞こえてきた。
俺は一瞬固まると、首だけを回して部屋の中を見回す。が、当然誰もいない。
幻聴だと思いながらも、注意深く部屋の中を見回していると、突然クローゼットの扉が開いた。もちろん周りには何もいない。
俺が唖然とクローゼットを見つめているのもつかの間、今度は俺の机の上に並んでいる教科書類が突然床に落ち、さらには部屋の照明も明滅をはじめ……。
俺は一刻も早く部屋から出ようと、扉の鍵を開け、ドアノブを回すが、当然のように扉は開かない。
俺は大きく息を吸い込むと、大声で叫んだ。
「俺が悪かったーーーーーーー! クレア姉さんのこと信じるから、早くこの使い魔持って帰ってくれーーーーー!」




