毒食らわば解毒剤を
時刻は午前九時三十分。
待ち合わせの時間よりも約三十分ほど前に到着。が、Aさんは俺よりも早く待ち合わせ場所にいた。
「おはよう××君。随分来るの早いね。私と遊ぶのが楽しみで待ちきれなかったのかな?」
さわやかな笑顔を振りまきながら、俺に挨拶をしてくるAさん。
「ああ、おはよう。いい天気でよかったね」
俺も定番の挨拶を、できるだけ微笑みながら返す。
Aさんは挨拶が終わると、不思議そうな顔をしながら俺の服装を見てきた。内心の怯えを隠しながら、俺はさりげない口調で尋ねる。
「えーと、俺の服、なんか変かな?」
「うーん、変っていうか……それって制服だよね?」
その通り。俺は高校の制服を私服として来ているのだ。
ただし、俺が通っている自立園学園の制服ではない。シャツはE高校の制服、ズボンはM高校の制服、ブレザーはR高校の制服といった風に、全て異なる高校の制服から自分の気に入ったものを選び抜き私服としている。さすがに大学に行ったり会社に就職することがあれば、制服を私服として着ることはやめるつもりだが、実際に高校生の間は制服を着ているのがいろいろと楽であり気に入っている。
まあそんなわけで、俺は現在パッと見はただの学校の制服というスタイルでいるわけだ。
Aさんはしばらく首をかしげて俺の制服を見つめていたが、気にしないことにしたらしく、楽しそうな声音でこの後の予定を話し始めた。
すでにメールに書いてあったことであり、俺は大体流しながら聞いていたのだが、最後にAさんが言った言葉には反応した。
「あれ? 確かメールに書いてあった予定では六時には解散じゃなかったっけ? なんか今夕飯の話が入ってたけど」
「うん、計画変更したんだ。もし私と一緒に夕飯食べたくないっていうなら別にいいけど、××君は別に嫌じゃないよね」
疑問口調ではなく命令口調で脅してきているような言い方だ。正直ただ遊ぶと言うだけでもハードルが高いのに、昼飯に加えて夕飯までというのかなりめんどくさい。が、断ったらあとでよくないことが起こりそうな雰囲気を彼女は醸し出している。
別段無理に断わる理由があるわけでもないので、笑顔を心掛けながら俺はうなずいた。
「もちろん構わないよ」
「よかった! 実は話したいことがあったから、断られたらどうしようって思ってたんだ」
「話したいこと? 今ここじゃ話せないの?」
彼女はあいまいな笑みを浮かべながら口を濁す。
「うーん、今すぐは話しづらいかな。この後気まずくなっても困るし」
「……そっか、じゃあその話は夕飯の時でいいよ。時間もちょうどよくなってきたし、そろそろ行こうか」
「うん!」
俺は考える。何度かすでに言った気もするが、一度立ったフラグは無視するのが一番まずいことになる。とはいえ、何も対策を考えずにただ行き当たりばったりで立ち向かうのは愚の極みだ。
今から夕飯までの間、フルに頭脳を働かせて、彼女が俺に話したい内容について推測を立てていこう。
そう決意して、俺はAさんとのデート(?)を開始した。




