服選びは慎重に
土曜日来る。
俺は朝七時に起き、いろいろと準備を始めた。
クラスメイトのAからメールをもらい、今日にいたるまで、何も起こらない平穏な日々が流れた。
そんな何もない日常が嵐の前の静けさにしか思えず、早くもげんなりとしている俺は、それでも着々と支度を整えていった。
「絶対何か起こる気がする。正直行きたくねぇ」
俺は誰もいない部屋の中で一人口走る。もしかしたらどこかで妹が盗聴をしているかもしれないが気にしない。
俺はクローゼットの戸を開けると、中に入っている服を見ながらしばらく固まった。
俺の通っている自立園学園は指定の制服を着ていく決まりになっている。人によっては制服のかっこよさ・かっこ悪さで学校を決める人もいるだろうし、当然制服指定のされていない私服OKの学校もあるだろう。
まあそれはどうでもいいのだが、俺は制服というシステムには常日頃からとても感謝している。制服のセンスはともかく、学校中の全員が同じ服装をするのだ。下手に服装で他人との差がつくことはなく、何より同じ服を毎日着ていっても何も不審に思われない。俺のような服に拘らないめんどくさがりには最適のシステムといえるだろう。
しかし、普段制服であるぶん、休日における私服のセンスはその人の人となりを判断する際にチェックされる代表選手となる。ゆえに私服はできるだけ無難なものを着ていきたいのだが、俺は自分の服のセンスに全く自信がない。変人と思われるような変な服を着ていくことだけは避けたいのだが、
「俺は私服を一つしかもっていない」
この場合の一つとは、服を一着しか持っていないという意味ではなく、一種類の服しかないという意味である。
俺は目の前に並ぶ、すべて同じ色・同じ形の服を睨み付けたまま、その後三十分ぐらい立ち尽くしていた。
三十分後、俺は覚悟を決めるべく、頭の中でまとめたことを口に出して確認していった。
「俺が取れる行動は二つだけだ。俺の今までのセンスを信じてこの服を着ていくか、兄か弟から服を借りるか、だ。アリアさんとの待ち合わせ時刻は午前十時。服屋はまだ開いてない。多少の遅刻を覚悟して、服屋が開くのを待ってから……というのはだめだな。アリアさんの計画は数分単位で決められていた。遅刻なんてした日には何されるか分からない」
考えすぎな気もするが、どうにも嫌な予感がしてならない。
「大丈夫な、はずだ。俺はこの服を着ていて厄介な事態に巻き込まれたことはほとんどない。それに変なやつだと思われたっていいじゃないか。別に一生付き合いが続くような相手じゃないんだ」
俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、時計を確認する。時刻は午前は八時。Aさんとの待ち合わせ場所まで約一時間半かかる。
少し早く到着してしまうかもしれないが、このまま部屋でグダグダと考え続けるのもあれなので、さっさと出発することにした。
「どうか何事もなく終わりますように……」




