クラスメイトが宿題を忘れた
学校に着くと、俺は普段と同じように、誰とも挨拶することなく、定位置であるクラスの一番端の席に腰を下ろした。
俺は基本的に本を読まない。別に読んだからといってたいして得られるものがあるとも思えないからだ。だが、こと学校においては、この本が非常に役に立つ。本を読んでいればクラスメイトは遠慮して話しかけてこなくなるのだ。
なぜ俺は会話を避けているのか? 理由は簡単、人と関われば関わるほど、何らかのイベントに巻き込まれる可能性が高くなるからだ。だから俺は必要最低限のことしか話さない。
今日も本を読んでいるふりを継続しつつ、授業が始まるのをただ待つのみだ。
「ねぇ××君、宿題忘れちゃったんだけど、見せてくれたりしないかな」
クラスメイトの女子Aが喋りかけてきた。
俺は考える。宿題を見せるべきかどうか。ちなみにだが俺は宿題は必ずやっている。どうせ結局はやらされるのだから、意地を張って宿題を拒む必要もないからだ。それに宿題をやらないでいるほうが先生から叱られるというイベントが一つ増えるのだ。宿題をやらない理由がないだろう。
そんなわけで、俺はAさんに宿題を見せることはできる。常識的に考えれば宿題をやっている以上、それを見せること自体は何らおかしなことではないし、悩むようなことではない。普通に宿題を見せればいいのだ。
だが、つい悩んでしまう。なぜなら、問題は宿題を見せる見せないではない。普段俺と接点のない女子が、どうしてわざわざ友人ではなくただのクラスメイトに過ぎない男に宿題を見せるように頼んできたか、ということだからだ。そして、立ちそうなフラグは片っ端から折っていくのが俺の信条である。
なので、俺はAに聞いてみた。
「どうして俺に頼むの? アリアさん、他にも友達いるんだし、そっちに見せてもらったほうがいいんじゃない?」
Aは手を合わせて、かわいく笑いながら言う。
「いつも宿題見せてもらってる友達が今日は休みで、他の友達はみんな私同様宿題やってきてなかったんだ。だから、いつも真面目に宿題出してる××君なら今日もきっとやってきてるだろうなと思って。ねぇ、ダメかな?」
俺は理由がはっきりしたのに満足し、笑顔でAに宿題のプリントを渡した。
「できれば丸写しはやめて、少しだけアレンジしておいてね。丸写しだってばれたら後々面倒だから」
「もっちろん! 伊達に宿題の写しをやってきてないよ。写したやつだとばれないように加工するのは超得意だから。じゃあありがとね、できるだけ早く返すから」
「ゆっくりでもいいよ」
提出期限に間に合うなら。心の中でそう呟き、俺は再び本を読み始めた。すると、去り際にAが余計なことを言っていった。
「××君やっぱり真面目で頭いいよね。今度勉強教えてよ。今日のお礼も兼ねてクッキーでも作ってくるから」
俺は考える。今、何か余計なフラグがたった気がするが、このフラグは放置したままにできるフラグだろうと。下手に折りに行くと余計厄介なイベントに巻き込まれることは経験済みである。
俺は余計なことは言わずに、Aに軽く微笑みかけるにとどめたのだった。