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とりあえず事なかれ主義  作者: 天草一樹


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19/50

悩みの種は尽きない

「それじゃあお兄ちゃん、また何か困ったことがあったら私に相談してねー」

 妹は笑顔で手を振りながら俺の部屋を出て行く。

 部屋に一人取り残された俺は、ベッドへとダイブした。

「これですべてが終わったわけじゃないんだよな……」

  まずは一人。俺が老婆を蹴り飛ばした場面を目撃した人物が見つかった。老婆を助けなかったわけもまあ分かったし、こいつに関してはもう問題ないだろう。

 ただ、妹の言っていたことが本当だとするなら、まだ何人かその場面を見たまま黙認している奴がいるわけだ。目撃者の一人が自称霊能者を名乗る面倒な相手だったために神経過敏になっているのかもしれないが、どうにも気が休まらない。

 なぜ、蹴り飛ばされた老婆を放置しておいたのか? そして、なぜ老婆は死んでいたのか? この理由が明らかになるまでは、しばらく面倒ごとが続きそうな予感がする。

 しかし、今は少なくとも厄介ごとは何もない。短い時間になるかもしれないが、せっかくの暇時間である、存分に堪能しないわけにはいくまい。

 今日は面倒なことは忘れ、布団に横になってごろごろしていようと決意する。と、突然俺の携帯が鳴りだした。

 億劫ながらも手に取ると、メールが一件来ていた。

 普段微動だにしないはずの俺の携帯に、突如メールが来たのだ。俺は嫌な予感を感じながらもメールの中身を読んでいった。

 絵文字や顔文字がとにかく多用され、俺に一切関係のない話が八割を占めていたのでそこらへんは読み飛ばす。簡潔に要点だけを絞り出すと、このメールはクラスメイトのAさんからであり、今度の土曜日に宿題を見せてくれたお礼がてら外で遊びたいとのことだった。

「……面倒だ」

 俺は考える。一般の男子高校生は女子からメールをもらったら喜ぶものだろうか? 少なくとも俺は喜ばない。もしその女子のことが好きなのであれば話は別だろうし、そもそも男女関係なく気安く遊んだり話せたりする人物ならば喜ぶのかもしれない。だが、そのどちらでもなく、そもそも男女関係なく外に遊びに行ったりしない――というか遊びに行く友人がいない――俺のような人種にとっては、女子と遊びに行くなど拷問のようなものである。まして、今は少々厄介な要件も抱えているのだから。

 つまり、この誘いは断るべきである。

「だが、この文章は……」

 俺はもう一度メールを読み返す。彼女が送ってきたメールは、まるで俺が断わるであろうことを想定しているかのごとく、いかにも断りづらい書き方ををしているのだ。

 要するに、俺と外で遊ぶことを前提とした文章が書かれていた。何時にどこで待ち合わせるのかは当然のこと、その後のプランやそも土曜日がダメだった場合の代替日についてまで詳しく書かれている。

 はっきり言って、これをすべて断るのはかなり至難。仮に断ってしまえば今後の学校生活に支障が出るかもしれないレベルだ。

 俺は、意を決して、Aさんのメールを返信した。

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