馬鹿とストーカーは使いよう
自称霊能者に別れを告げた俺は、父にさっきまでの話を連絡すると、家路についた。
家に帰宅した俺は、「ただいま」と玄関で言うとそのまま自室に向かった。
自室についた俺は、当然誰もいない無人の部屋を眺めてから口を開く。
「今回はいろいろと助かった。たまにはお前でも役に立つんだな」
そう言った途端、俺の背後からプシューと音を立てながら妹が現れた。どうやら扉の陰に隠れていたらしい。
「お兄ちゃんに褒められたお兄ちゃんに褒められたお兄ちゃんに褒められたお兄ちゃ……」
エンドレスで何かをぶつぶつと呟く妹を、俺は気味悪そうに見つめる。
しばらくして正気を取り戻した妹は、顔を赤らめながら俺にすり寄ってきた。
「えへへ、私でもお兄ちゃんの役に立つことはあるんだよー。今度からも何か困ったことがあったら私に相談してねー」
にへへへへと、にやけた笑顔ですり寄ってくる妹の頭を手で押さえつけながら、俺はため息をついた。
「しかし、実の妹が本当にストーカーだったとはな。兄としては少なからず責任を感じるところだ」
「えー、そんなことないでしょ。これだけ兄思いの妹なんて自慢以外の何物でもないでしょ!」
「盗聴器を常に常備してて、気配を消して他人に近づけるような妹を自慢だなんて言えねぇよ。犯罪者予備軍、というかもはや犯罪者といっても過言ではないからな。まあ、今回はそれが役に立ったんだが」
一昨日、自称霊能者と初めて会った後、俺は少し大きめの独り言を言ったのだ。
「誰かあのうさん臭い自称霊能者のあとをつけて、その正体を見極めてくれないかなー。まああり得ないと思うけど、もしそんなやつがいてくれたら感謝しまくりだなー」
周りにれもいないのを確認してからの独り言であった。で、その次の日の朝にはいろいろと自称霊能者に関する報告書が机に置いてあった。報告書とともに録音レコーダーが置いてあり、そこには自称霊能者と狐面の男が覚醒剤の取引についての話をしているのが録音されていた。
それを父に聞かせて、今朝の出来事に至ったわけだが。
「本当、恐ろしい妹だよ。どうやってあんなの録音してきたんだか。というかどこで俺の話を聞いていたのか」
「? 何か言った?」
「何も」
俺は考える。えてして優秀な犯罪者は、非常に高いスキルを持っていることが多いのではないかと。とはいえ、彼ら(彼女ら)がそれを有用に社会に活かせる仕事などほとんど存在しないだろうと。




