深夜の待ち合わせはろくでもないことばかり
自称霊能者に指定された時刻・場所にて、俺は約束通り暗闇が支配する夜の校舎の一部屋で待機していた。
時刻は午前二時。いまだ誰も訪れる気配はなく、静寂が保たれていた。
すると、突然廊下をゆっくりと歩いてくる足音が聞こえ始めた。
俺がじっと待っていると、顔に狐の仮面をかぶった男が教室の中に入ってきた。
「合言葉は」
狐面の男は挨拶もなしに、そう声をかけてくる。
「*****」
俺も特に動じることなく、自称霊能者の名前を男に告げる。
狐面の男はそれに満足したように小さく頷くと、右手に持っていた小さな黒いケースを渡してきた。
俺は確認するように、狐面の男に尋ねる。
「これが除霊用の清めの粉なんだよな。お代とかは払わなくていいのか?」
狐面の男は少し馬鹿にしたように笑うと、その通りだ、と言ってきた。
「正真正銘清めの粉さ。お代に関してはすでにもらっているから気にしなくていい」
俺はケースを開け、中に白い粉が入った袋があるのを確認すると、教室中に響くほどの大声で叫んだ。
「親父、物は確認したからささっとこいつ捕まえてくれ!」
俺の声を合図に、教室の明かりがつき、数人の警官が現れた。
狐面の男が唖然としている間に、警官は狐面の男を拘束する。
俺はその光景を尻目に、警官の一人についさっき受け取った白い粉入りの黒いケースを渡した。
「多分麻薬か覚醒剤のどっちか。つうか俺はその区別はつかないから何とも言えないけど。まあ調べてみればわかると思うよ」
警官――もとい俺の父は、それを受け取ると無言でうなずき、いまだ呆然としたままの狐面の男を連れてその場を立ち去った。
「さて、後はどう自称霊能者に説明するかだな。面倒だけど、まあやるか」
俺は誰にともなくそう呟くと、父のあとを追って教室を出て行った。




