自称霊能者ほど疑わしいものはいない
自称霊能者ほど疑わしいものはないと思う。
一つ誤解しないでほしいのは、俺は非科学的なものに対して否定的な人間ではないということだ。
霊やUMA、宇宙人などは存在していても不思議ではないと思っている。この地球という星に我々人間という生物が存在しているのだから、この広い宇宙のどこかに別の生命体が存在していても不思議でないと考えている。UMAにしたって、ゴリラが存在するのだからビッグフットや雪男が存在していても何ら不思議ではないと思う。霊も同様に、人が死んだ後どうなるか分かっていない以上、何らかの未練を持った人間が、何らかの条件を満たすと幽霊としてこの世に存在し続けるという仮説を否定する根拠などなく、信じていないわけではない。
しかし、霊能者となると話は別だ。まず霊能者を信じられないのは、霊を視えたり感じたり除霊できたりするくせに、霊と会話して仲良くなり、その力を使う霊能者がいないからだ。一般人に霊が視えない以上、霊の存在を信じてほしいなら、霊の力を借りる意外に証明するすべなどないはずだ。にもかかわらず、ただ霊がいる、視えるとだけ騒ぎ立てている輩は、そもそも頭が悪いとしか思えない。
と、まあそんなわけで俺は自称霊能者のことを全く信じていない。
場所は屋上。俺の目の前で霊が何たるかを話し続けている男を前に、俺はつらつらとそんなことを考え続けていた。
「どうだい、霊がいるということがよく分かったかな? そして今君がどれだけ危険な状態にあるのかも」
分かるわけがない。そもそも俺はこいつの話を一切聞いていないのだから。
俺が無言でいるのを自分のいいように解釈したらしい自称霊能者は、大儀そうにうなずいた。
「もちろん君の気持ちも分かる。突然こんな世界の真実に触れてしまえば、誰だって不安な気持ちになるだろう。だが心配はいらない! この僕が君の周りに巣くう悪霊を全て退治し、君を今まで通りの平穏な日常に戻してあげよう。そのために少しばかり協力をしてもらいたいのだがいいかな? 何、たいしたことではないさ」
厄介な自称霊能者に捕まり、何か面倒ごとに巻き込まれそうになった場合どうすればいいのか?
とりあえず、相手の意図を知るために俺は無言を貫いた。
「実は明日の夜、この学校である人から除霊のための清めの粉をもらう手はずになっていたんだ。しかし、僕にはどうしても外せない急用ができてしまってね。君に代わりにとってきてもらいたいんだ。大丈夫、僕の名前を言えばすぐに相手に伝わるはずだから。それにその清めの粉は君にまとわりついている老婆の霊を祓うのにも必要なんだ。どうだい、頼まれてくれるかな」
俺は考える。随分と俺もなめられたものだ、と。
俺は相手が望む通りの返事を返す。
「分かった。それぐらいのことだったら問題ない。それよりも、本当に老婆の霊を祓ってくれるんだろうな?」
自称霊能者はにんまりと笑いながら答える。
「もちろん、その点は心配しなくていいよ。必ず君に憑りついている悪霊は退治すると約束しよう」
俺は自称霊能者にばれないよう小さくため息をつくと、今度こそ屋上を後にした。




