何も変わらない日常
朝は極めて順調だった。
特に何も起こることはなく、普段通りの日常が続く。
俺は朝食を食べると、いつものルートで学校へと向かう。途中、妹が後をつけていないかと何度か振り返ってみたが、特に誰かがいる気配はしなかった。
老婆の死んでいた場所も、少量の血痕らしきものが残っていたほかは、特になにも変わりなかった。
学校へ着いた俺はいつも通り席につき、授業が始まるまで読書に励んだ。
昨日とは違い、誰かが喋りかけてくることもなく、朝礼が始まる。
あまりの平穏さに逆に気味の悪さを感じながらも、俺はこの平穏な時間を存分に堪能していた。
俺の幸運は六限の授業終了まで続いた。
いつものようにクラスメイトの誰よりも早く教室を出て、下駄箱へと向かう。
下駄箱を何気なく開け、靴を履き替えようとしたところで、ついに俺に非日常が発生した。
下駄箱の中には、俺当てに書かれた手紙が入っていた。
読むか読まないか迷ったのは一瞬、俺は人目につかない場所に移動し、さっそく手紙を読み始めた。
『今日の放課後、屋上に来てください。話したいことがあります』
簡潔にそれだけの文章。もちろん差出人の名前は書いていない。
俺は考える。屋上に行くべきか否か。どちらがより厄介なフラグが立つか。
今度も逡巡は一瞬、俺はすぐに屋上に行くことを決意した。
たいていのフラグは無視した方がより厄介なものになって返ってくることが多い。俺のそこまで長くはない人生経験から言えることだ。それに、昨日の老婆の件もある。早めに回収しないとまずいことになるフラグの可能性もある。
すぐに屋上へと向かい始めた俺だが、さっそく一つ気になることがあった。そもそも屋上は開いているのだろうかということだ。
普段、屋上に行こうとすることなどないからよく分からないが、屋上は基本的に鍵がかかっているものじゃないのだろうか? まあ行けば分かることである。
数分後、俺は屋上に到着した。ちなみに屋上に鍵はかかっていなかった。
屋上には全身を黒いマントで覆った、見るからに怪しい男子生徒が一人。
俺がやってきたのに気づくと、大げさな身振りを交えながら俺を指さし、高らかに告げた。
「××君! 君には老婆の霊がついている! その老婆を除霊できなければ一週間以内に君は死ぬことになるだろう!」
「そうか。じゃあ俺帰るわ」
相手が次の言葉を吐く前に、俺は屋上を出る。
ああ、これはダメなやつだ。避けようが避けまいがどちらにしろ面倒な事態に陥るタイプのイベント。平穏すぎるさっきまでの時間は嵐の前の静けさだったわけだ。
俺は後ろから聞こえる足音を聞きながら、小さくため息をついた。




