遅くまで起きる理由などない
午後十時ちょうど。
俺はトイレから戻ってくると、部屋の電気を消し、ベッドに横になった。
最近の高校生は寝るのが遅いと聞く。以前クラスメイトに十時にはいつも寝ていると言ったとき、かなり驚かれたことがある。
だが俺からしてみたら逆に聞きたい。一体何をそんなに夜遅くまで起きることがあるのかと。宿題なんて真面目に取り掛かれば一時間もあれば終わる程度のものばかりだ。もちろん大学受験に備えてたくさん勉強している奴もいるのだろうし、それに対して疑問はない。だが、そうじゃない奴らは何をしているのだろうか? 寝ること以上に素晴らしいものなどそうありはしないと思うのだが。
そんなことをうとうとしながら考えていると、突然ベッドの下から、ゴン、と衝撃が伝わってきた。
あえて身じろぎせずに、そのまま放っておくと、ベッドの下から黒い影がはい出てきた。
黒い影は頭をさすりながら立ちあがると、小さな声で何やら文句を言い始めた。
「ふぅ、いたかったぁ。それにしてもお兄ちゃん、いつもいつも寝るの早すぎだよ。何かやることとかないのかなぁ? 今日みたいに普段ないイベントがあった日ぐらい、いつもとは違う行動をとるかと思って待機してたのに、結局何もせずにいつもと同じように就寝しちゃうんだもん。まあいっか。とりあえずいつものようにお兄ちゃんの携帯をチェックしてぇっと」
黒い影――もとい妹は、充電してある俺の携帯を取りに、音を立てないようゆっくりと歩いていく。
俺もその後ろをゆっくりと音を立てずについていくと、妹の背後に気配無く立ち、腕を振り上げた。
「さぁて、お兄ちゃんに悪い虫はついていないか」
妹の独り言を遮るがごとく、全力で頭に拳骨をくらわす。
ぐるりとひっくり返って倒れた妹を、俺は部屋の外へと追い出し、自分の部屋に鍵をかけた。
いい加減妹の行動に対して何らかの対策を立てないといけない気がしてきた。というか、今日だけでいかに妹が俺の周りで非日常をまき散らしているのかを知った。
「たまには夜遅くまで起きてみるのもいいか」
もしかしたら皆も、俺が普段スルーしてしまっていることをスルーしないでいるから、夜遅くまで起きているのか。
「いや、こんな妹は普通存在しないな」
家族が異常。そんな環境で育ったからこそ、俺はこんな性格になったのだろうか。だとしたら何という皮肉。
俺の望む生活の最大の障害は家族なのだった。




