兄弟でも性格はかなり違う
兄弟とは不思議なものだ。
同じ両親から生まれ同じ環境で育ってきたはずなのに、ものの考え方も好きなものも違う――もちろん違わない兄弟もいるのかもしれないが。
まあ先に生まれたか後に生まれたかで親から受ける対応も変わるだろうし、何より兄がいるか弟がいるかという違いができるわけだ。
どちらにも異なる苦労が存在するわけで、いろいろと考え方が異なるのは当たり前なのだろうが、やっぱり不思議に思う。
そんなことを、俺は目の前にいる弟を見ながら考えた。
弟は俺よりも背が高い(俺の身長はトップシークレットである)。そして、何かにつけて面倒な行事やイベントを避ける俺と違い、弟は活発に部活動に参加し、友達もたくさんいる。
以前、朝早くから部活の練習をしに家を出て行こうとしていた弟を見たとき、俺はこんな質問をした。
「なあ、なんでわざわざ朝早くから部活なんてしに行くんだ? 別に将来何かの役に立つわけでもないだろ」
弟は俺のことをちらりと見ると、靴を履きながらこう言い返してきた。
「何かをするのにいちいち頑張らない理由を考えないといけない兄さんは大変だね。俺は自分がしたいからやってるだけだよ。そこに特別な理由なんてない」
じゃあ、行ってきます。そう言って弟は家を出て行き、会話はそこで終了した。
今の回想が何か重要なわけではない。ただ、同じ家庭で生きてきたはずなのにいろいろと考え方の合わない奴がいるんだな、と思っただけのことなのだが。
洗面所で手を洗っている弟に俺は声をかける。
「もう帰ってきたんだな。今日は部活はなかったのか?」
「うん、今日は休みなんだ。たまには体を休めないといけないから」
そこで話は途切れ、洗面所には弟が手を洗う音だけが流れた。
手を洗い終わった弟はそのまま洗面所から出ようとしたが、俺の手についている血の跡を見て、怪訝な顔をしながら俺を見てきた。
「その血、どうしたの? 兄さんのことだからまさかないとは思うけど、喧嘩でもしたの?」
俺は考える。弟に今日のことを話してみるべきだろうか。
先に会った二人の変態姉妹と違い、弟はしっかり者である。話してみればそれなりにまともな答えが返ってくるはずだ。だが、先に一つ確認しておいた方がいいだろう。
「なあ、あくまで仮定の話なんだが、もし俺が人を殺したとしたらどうする」
弟は俺の顔ではなく、俺の手についた血を見ながら答える。
「もちろん警察に出頭するよう説得するよ。万が一それに応じない場合は……」
そこで言葉を切り、弟はこぶしを強く握りしめた。
俺は内心の動揺を隠しながら、さりげなさを装って笑いかける。
「冗談の話しだからあんま気にすんな。この手についた血のことが気になってるみたいだけど、これは姉貴の鼻血だよ。お前が気にするようなことじゃないさ」
まだ訝しんだような顔で俺を見つめてくる弟を無視して、俺は手を洗い始める。
どうやら弟にこの話はしないほうがよさそうだ。命の危険を感じるし、最低でも警察とは絶対に関わらないといけなくなる。
俺は弟に気づかれないように小さくため息をつき、現実逃避として夕飯へと思いを巡らせた。




