一人の人間にできることはそう多くない
俺はまず、何よりも気になったことを妹に問いかけた。
「聞きたいんだが、お前含めてその場で俺の蛮行をを見ていた誰も老婆を助けにはいかなかったのか?」
「うーん、私はすぐにお兄ちゃんのあとを追いかけていったからね、他の人がどうしたのかはよく分かんないや」
「まずもって、なんでお前は俺のあとを追いかけてるんだよ……」
俺はさっきから感じる頭痛をこらえながら、ため息とともに疑問を吐き出した。
妹は俺に対して意味深な微笑みを投げかけるだけで、何も答えない。
この話題を続けてもいいことは何もないだろうと悟り、今度は姉に話を振った。
「邪魔が入って聞きそびれたけど、姉貴は結局何時ごろに老婆の死体を発見したんだ?」
そう言って姉を見ると、姉は正座した状態で眠りこけていた。
「……」
俺は姉の腹を全力で殴りつけて強引に起こすと、質問を繰り返した。
「それで、姉貴は何時ごろに老婆の死体を発見したんだ?」
「ぐふ。あー、時間なんて見てないから知らないよ。私は黒魔術占いの指示通り外に出ただけだもの。時間指定は特にされてなかったしね」
「そうか」
俺はそう呟くと立ち上がり、自分の部屋に帰ることにした。
質問をそれで切り上げて部屋に戻ろうとした俺に驚いたのか、妹が慌てながら呼び止めてきた。
「ちょっとお兄ちゃん、質問それだけでいいの? もっと何か聞きたいことがあるでしょ」
俺は振り向かずに「特にない」とだけ言い残し、姉の部屋を出た。
自分の部屋に戻った俺は、再びベッドにダイブした。
「まずは様子を見るしかないな」
俺は考える。妹はともかくとして、俺の蛮行を見ていた奴らはいったいどう動いたのだろうか?
記憶が正しければ、死んでいた老婆は頭から血を流していた。もし俺の蹴りが原因で頭から血を流していたとして、善良な一般市民がそれを放っておくだろうか。
答えは否、だ。
日々、どこにでもいる何の変哲もない一般人を志している俺ならわかる。さすがに頭から血を流して倒れている老婆を見て、それを放置できるような一般人はまずいない。いくら人に無関心な時代になってきているとはいえ、それはあり得ない。
考えられることは二つ。一つは、やはり俺は老婆を殺しておらず、老婆は助ける必要がないくらいぴんぴんしていたという可能性。もう一つは、そいつらが老婆を殺した張本人である、という可能性。
「……しまった、手を洗いに行くの忘れてた」
それなりに腹をくくり、本気でこの事件に取り組もうとは考えたものの、ただの一高校生にできることなんてほとんどない。今はとにかく事態の進展を見守るのが一番である。
俺はそう結論を下すと、ベッドから体を起こし洗面所へと向かった。




