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道におばあちゃんが倒れていた

非現実的なことは起こり得ないからこその非現実だと思うのですが、もし起こってしまったのなら、それは現実的なことだったということなのでしょうか?

 人生はとても無為なものである。何をしようが、何を成そうがその先に行きつく未来は一つなのだ。すなわち死である。

 だったら、頑張って生きるだけ無駄なんだと思う。だから俺は頑張らない。もちろん適度には頑張るが。そこそこの大学に行って、そこそこの会社に就職し、そこそこの金を稼ぎ、そこそこの人と結婚し、そこそこ幸せに生きられる程度には。

 ただ、それ以上のものは望まない。それこそ、この世界での生活を頑張って、この世界に愛着がわいてしまったら、死ぬのが辛くなるだろうから。

 だから俺は望まない。特別なイベントなんて起こらなくていい。やらなくていいことはしなくていい。俺は日々の生活をそこそこにこなしていければ、それでいい。

 善人になる必要なんてない。まして悪人になる必要なんてもっとない。人に流され時代に流され、その場の状況に逆らわない生き方を貫けばいいのだ。

 だから、まあ、俺の目の前に現在、足をくじいたらしく歩けないおばあちゃんがいたとしても無理に助ける必要はないと思うのだ。学校に遅刻するのはまずいし。

 善人なら当然手を差し伸べ、悪人ならば罵声の一つでも浴びせるだろうが、どちらでもない俺のような人間はあくまで見てるだけで通り過ぎるのがベストな選択だろう。どうせ俺がしなくても誰かが助けるだろうから。

 俺はそう考え、歩けずに困っているおばあちゃんの横を、見て見ぬふりをしながら通り抜けようとした。

「……」

 俺はそのおばあちゃんをやや通り過ぎた時点で立ち止まった。別に俺の心に人助けをしたほうがいいという、善良な考えが降臨したわけではない。

 足をつかまれたのだ。足をくじいて困っているおばあちゃんに。

 俺は考える。ここでこの手を振り払い歩き出すことは、一般的な行為だろうか? いや、ここで振り払い逃げることはいくら何でも非常識すぎるだろう。俺は覚悟を決めておばあちゃんのほうに振り返る。

 おばあちゃんはすごい形相で俺のことを見ていた。それはもう、野生のライオンでさえ怯えて逃げ出すであろう形相だ。

 ゆえに、俺は考える。一般的な人間がこんな風に睨み付けられて逃げ出さずにいられるだろうか? 答えは、否だ。

 俺は恐怖のあまり、おばあちゃんを蹴飛ばすと、全力で走ってわが母校である自立園学園に向かったのだった。

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