第6話 ~“きみを救う魔法” <前編> -呪いの名- ~
「色の名前?」
「あらあなた、そんなこともしらないの?
この12帝国のそれぞれの国は、色の名前を冠しているでしょ?
赤の国、青の国―-そして、このわたしの統べる、紫の国―-。
なぜなら、名には古くから、呪術的な力があるから。
……名の力は強大よ。その者の運命を変えてしまうほどにね……」
グリシーヌは続ける。
「だから、わたしたち12の血族……12王たちは、
代々色の名前でガチガチに縛られている。
例外は、王の血の途絶えた黄の国ぐらいかしら。
外界<アザー>から招かれた青年――リクと言ったかしら。
彼が治めた国は、皮肉なことに、
12帝国のなかでもっとも恵まれた国になったわ。
おそらく、王族の血が統べる時代はそのうち終わるでしょうね――」
グリシーヌは、そこまですらすらと語ると、
はじめて、皮肉気な表情をみせた。
「――正直、せいせいするわ。
紫の国の、時代遅れの伝統主義には、もううんざり。
名字も名前も、真名も……色の名前でガッチガチに縛られた、
哀れな子どもたちは、わたしで最後にしないと――……」
「……きみは、自由がほしいんだね」
ぼくは唇にのせて、静かに言葉を紡いだ。
「……どうかしらね」
グリシーヌは一呼吸置いて、ミステリアスに微笑んだ。
でもそれも、どこか決められた役割を演じているようで。
紫の国の、ヴィオレッタ・ウィスティリア。
グリシーヌ(藤の花)という真名を持つ、
齢15の若き巫女王。
書架の至る所に、まるで誇るように、
――もちろん真名を除いて――その名前は記されていた。
下の名前はすみれ(ヴィオレッタ)、
家名と真名は藤の花―。
ぼくは、想像する。
もし、ぼくが生まれたときから、こんな風に、
一国の名を背負って、生きていかなければいけないとしたら?
国のために、すべてを捧げろといわれたら?
想像は想像にすぎない。
でも、未熟なぼくにだって、わかることがある。
“よく考えろ”
ぼくはぼくに命令する。
はじまりから終わりまで、人生のすべてを定められ、
常に期待された通りに振る舞うしかない――……
-―それは、まるで――“祝い”という名の、“呪い”だ――。
ぼくは、朧気に思った。
もし少しでも、彼女の救いになれたとしたら―?
その檻から“自由に”してあげられるとしたら―?
ぼくは、グリシーヌに黙って、青の国の資料を借りた。
紫陽花の図書宮。
その端にある、青の国の――
ひとつの禁猟区の資料を――……。