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リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第一章 『リシアンの契約Ⅰ』
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第5話 ~ツァラトゥストラの眠り病~

「……――リシアン!」



「……リシアン、返事をするでやんす!!」


「……ん……ぅ……」


重いまぶたをこじあけ、みえたのは、


まるで手負いのキツネのように、目を激しくつり上げた紫尾だった――。




「しお……ど……したの……すごい顔だよ……」


「誰のせいだと思ってるでやんす……!!」


紫尾は珍しく、しゃくりあげるように喉をふるわせた。



「――おまえは今、全身の骨にひびがはいって、

 打撲だぼくもしびれも、ひどい状態でやんす……!


 母上のせんじ薬がなければ、

 そのままショック死しても、おかしくなかったでやんすよ……!」



そのまま、ぼくの胸に倒れ込むように、紫尾は涙を落とした。


透明な雫が、硝子がらす色の宝石になって、

きらきらとぼくの胸に散った。



「そっか……」



ぼくは帰ってきたんだ。この世界に……。



――ツァラストラの紡いだ夢の世界は、

まるで――あまいあまい、揺りかごのようだった。


そして、みんな、この揺りかごのなかで眠っているんだ――。


紫尾の“涙水晶<クリスタル>”が、ぼくの胸に吸い込まれ、

猛スピードでその構造式を書き換えてゆく。


ちぎれた神経が繋がれ、まるで最初からそうであったように、

筋肉と骨が再生されてゆくのがわかった。



「……これで、いいのかな……」


ぼくは、そのやさしい夢を叩き壊し、みんなを強引に救おうとしている。


ぼくは、その常闇を、あまねく子どもたちを永久の眠りにいざなう、

<ツァラストゥラの眠り病>のことを、

みんなを苦しめる、悪夢のようなものだと思っていた。


でも、そうじゃなかった。


その夢幻むげんの世界では、すべてがやさしい色をして、

現実という、毒と、痛みと、孤独に満ちた世界から、

ぼくをすくいあげ、その心を、懐かしいぬくもりで満たしてくれた。



そのあまくやさしい揺りかごを、力ずくで打ち破るのが、

果たして正義で、正しいことなんだろうか……。


ぼくはほんとうに、そうすべきなの?


もし、もっと他の答えが、解決法が、あるとしたら――?



「……お母さん……」


祈るように、(こうべ)を垂れた。



“ぼくは、今、正しくあれていますか――……?”



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