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リシアンの契約 ~呪われた世界と聖なる夜の仔~  作者: 水森已愛
第五章 『リシアンの契約0』 ~アウト・ヒストリア編~
51/51

“涙花” “愛歌” ~そして、君へ継ぐ~

 

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 やがて、喪失の横糸と共に、奪還の縦糸は紡がれる。

 あの頃の僕らは幼くて、幼すぎて、そして、必死だった。


 今、最後の扉が開かれる。

 常闇という箱庭を抜け出て、現実の世界を選ぶ日は、あっという間だった。


 もう、あの世界に行くことは、永遠にないだろう。


 それでも……次の涙花が生まれる時まで、僕は、紡ぎ続けよう。



 ねえ、愛世。君は、僕に誓ってくれたね。

 あれがどれだけ嬉しかったか、きっと君は知らないだろう。


 結局、君は、その誓いを果たすことなく、逝ってしまったけれど。


 君が残してくれた宝物と、僕は生きていく。

 愛歌あいか夜宮愛歌よるみや・あいか


 夜の箱庭で、それでも愛を歌う、君のような子だ。

 僕は、この物語を通して、多くのことを語ってきた。


 愛歌は、次の涙花にはならない、と信じている。

 でももし、なる時がくるとしたら……。


 紫緒。君にまた出逢えるって、信じているんだ。



 悲しみの横糸と、喜びの縦糸。


 ああ、人の命とは、こうして紡がれてゆく。

 物語のような、完全無欠の、ご都合主義のハッピーエンドとはいかない。


 それでも、僕はきっと笑って、この人生の台本を閉じるだろう。

 最後の一ページまで、笑って生き抜くだろう。


 紫緒。グリシーヌ。トオヤ。


 そして、愛世。


 君たちに出逢って、僕はこんなにも、幸せだった。



 愛歌。こんな物語を残した僕を、赦してほしい。


 そして、君が、君こそが、本当のハッピーエンドを紡いでほしい。

 僕はもうすぐ、いなくなってしまうけれど。


 どうか、君だけは、笑っていて。



 いずれ、幸福に至る悲劇。罪と救済の物語。


 あるいは、喪失と奪還の物語。


 僕は、ページを閉じる。


 だが、覚えていてほしい、愛歌。

 この物語は、アンハッピーエンドではない。


 未来へと続く五線譜で、僕は待っている。

 ドリームエンジン。あるいは、ゼロ地点へのタイムマシン。


 僕は、再び、あの子と出逢う。


 真白き花の彼女は、死にたがりの少女は、僕を待っている。


 愛世に感じていた、あの激しい恋情を、彼女に抱くことはないだろう。

 ただ、運命なんてものがあるとしたら。


 あの子は、再び僕を導いてくれるだろう。




 重ねて言おう。

 これは、アンハッピーエンドではない。


 僕は信じている。

 君が、君こそが、この物語を完成させる、はじまりのひと<マエストロ>となることを。


 そうして君も、彼女に出逢う。



 さあ、悲しみの因数分解をしよう。


 幸せの解を、求めに行こう。



 リシアンの契約。――罪なき名、彼の名は。





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 ・



「なあ、お前の名は?」


「お前に名乗る名前なんて、ない!!」



「なあなあ、愛歌……」


「うるさい、その名で呼ぶな、××!!」


 おっと、今度の主役は、少々、やんちゃなようだ。



 さあ、次の扉を開こう。

 愛と絶望と、喪失と奪還と、憎しみと希望の物語が、今、あふれだそうとしている。


 そうだね、愛歌。さようなら、なんて悲しい。


 また会おう! 僕の、愛しい娘よ!!




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