“涙花” “愛歌” ~そして、君へ継ぐ~
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やがて、喪失の横糸と共に、奪還の縦糸は紡がれる。
あの頃の僕らは幼くて、幼すぎて、そして、必死だった。
今、最後の扉が開かれる。
常闇という箱庭を抜け出て、現実の世界を選ぶ日は、あっという間だった。
もう、あの世界に行くことは、永遠にないだろう。
それでも……次の涙花が生まれる時まで、僕は、紡ぎ続けよう。
ねえ、愛世。君は、僕に誓ってくれたね。
あれがどれだけ嬉しかったか、きっと君は知らないだろう。
結局、君は、その誓いを果たすことなく、逝ってしまったけれど。
君が残してくれた宝物と、僕は生きていく。
愛歌。夜宮愛歌。
夜の箱庭で、それでも愛を歌う、君のような子だ。
僕は、この物語を通して、多くのことを語ってきた。
愛歌は、次の涙花にはならない、と信じている。
でももし、なる時がくるとしたら……。
紫緒。君にまた出逢えるって、信じているんだ。
悲しみの横糸と、喜びの縦糸。
ああ、人の命とは、こうして紡がれてゆく。
物語のような、完全無欠の、ご都合主義のハッピーエンドとはいかない。
それでも、僕はきっと笑って、この人生の台本を閉じるだろう。
最後の一ページまで、笑って生き抜くだろう。
紫緒。グリシーヌ。トオヤ。
そして、愛世。
君たちに出逢って、僕はこんなにも、幸せだった。
愛歌。こんな物語を残した僕を、赦してほしい。
そして、君が、君こそが、本当のハッピーエンドを紡いでほしい。
僕はもうすぐ、いなくなってしまうけれど。
どうか、君だけは、笑っていて。
いずれ、幸福に至る悲劇。罪と救済の物語。
あるいは、喪失と奪還の物語。
僕は、ページを閉じる。
だが、覚えていてほしい、愛歌。
この物語は、アンハッピーエンドではない。
未来へと続く五線譜で、僕は待っている。
ドリームエンジン。あるいは、ゼロ地点へのタイムマシン。
僕は、再び、あの子と出逢う。
真白き花の彼女は、死にたがりの少女は、僕を待っている。
愛世に感じていた、あの激しい恋情を、彼女に抱くことはないだろう。
ただ、運命なんてものがあるとしたら。
あの子は、再び僕を導いてくれるだろう。
重ねて言おう。
これは、アンハッピーエンドではない。
僕は信じている。
君が、君こそが、この物語を完成させる、はじまりのひと<マエストロ>となることを。
そうして君も、彼女に出逢う。
さあ、悲しみの因数分解をしよう。
幸せの解を、求めに行こう。
リシアンの契約。――罪なき名、彼の名は。
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「なあ、お前の名は?」
「お前に名乗る名前なんて、ない!!」
「なあなあ、愛歌……」
「うるさい、その名で呼ぶな、××!!」
おっと、今度の主役は、少々、やんちゃなようだ。
さあ、次の扉を開こう。
愛と絶望と、喪失と奪還と、憎しみと希望の物語が、今、あふれだそうとしている。
そうだね、愛歌。さようなら、なんて悲しい。
また会おう! 僕の、愛しい娘よ!!
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