最終話 “×××” ~ネバーエンド、ハローグッバイ~
――それにしても。
ぼくはそもそも、なんで骨折したんだっけ……。
そう、山で転げ落ちて、全身を強打したんだ。
それなのに、ぼくの外傷は、足の骨一本折っただけ。
奇跡的とも言っていいだろう。
かなり高い崖から落ちたので、死んでもおかしくなかったはずだ。
そういえば……なぜだか、前後の記憶がない。
覚えているのは、目覚めた瞬間のあたたかな……。
そう、全身が、まるで柔らかな羽に包まれたように、
優しいあたたかさを持っていて。
誰かが、必死に呼びかけてくれたのも覚えてる。
それが誰だったのか……。
記憶から抜け落ちたように覚えていないけれど。
そして、ぼくは、そのひとを知っている気がするのだ。
ずっと前から。
ぼくの隣にいてくれたひと。
その名前は……。
――にゃあん。
不意にくすぐったい、なめらかなものが、ぼくの足元を撫でた。
「……きみ」
それは、最近よく会う、黒いねこだった。
「誰の飼い猫だろう?」
首もとに、紫色の輪っかをつけていた。
「……こら! そこにいたのか……!」
そしてぼくは、出会うのだ。
「あ……」
光を受けて紫色に輝く、夜色の髪と、
瑠璃色の目をした、そのひとに……。
ぼくの物語は終わらない。
いや、永遠にはじまり続ける。
長い夜はいつか朝焼けをもたらし、世界は祝福の光に包まれるだろう。
いや、今、この瞬間……ぼくの夜は、明けたのだ……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこまで記すと、ぼくは窓を見上げた。
――昔話をしよう。
もうずいぶんと昔、ぼくの子どもの頃の話だ――。
昼の世界のもうひとつの顔、常闇の世界には
12色の国と、神、そして王がいた。
両親を失った少年は、瑠璃の魔女と出逢い、
彼女の死をきっかけに、掛け替えのない相棒を得、旅に出た。
彼女の落としもの<心残り>とは、彼が孤独を越えて、大人になること。
やがて彼は、蝋燭を灯すように、
呪いに満ちた世界を照らしはじめる。
さあ、その続きを語ろうか。
――いや、きみはもう、わかっている。
そう、物語の続きは、きみ自身のなかにあるんだ。
蝋燭の灯しびと、リシアン……それはきみだ。
きみは、きみ自身の手で、この世界を照らすといい。
魔法の言葉を教えよう。
これさえあれば、常闇の世界はきみのものだ。
さあ、扉を開けよう。
大丈夫、きみにはぼくがついている。
ぼくはいつでも、きみのなかにいる。――そうだろ?
さあ、目をつむって。ワン、ツー、スリー……。
きみの物語はここからはじまる……。
The story does not end.
Will repeat. This story is not a fiction.
What keeps this world begins many times, it's all me.
Let's open the door...




