第4話 “篠乃” ~真相は闇のなか~
「ドリームダイバー?」
篠乃先生こと、篠姫さんは軽く目をみはる。
「セドリックのやつがそう言っていたのか。ふむ……なるほどの」
「やっぱり知っているんですね! 詳しく教えてくれませんか?」
「それをわらわに聞くのか?」
「う……っ」
確かに、ぼくは、一度紫緒を使って、篠姫さんをこてんぱんにしている。
ヒーローにはならない、とかっこつけておきながら。
やっぱりぼくは、どこかヒーローに憧れていたのだ。
そう、超常の力さえあれば、なんでも変えられると……。
傲慢に、子ども心に、妄信していたのだ。
つまりは、辛い現実から、逃げようとしていた――……。
「――まあ、いいじゃろう。
ぶっちゃけ、わらわは、なにも知らないのだからな」
「え……っ」
そんなはずは。
だって篠姫さんは、あの時、確かにすべての黒幕で――。
まるで、この世のすべてを掌握するような、
悪役……だったのに。
「まだそなたはわかっておらんようじゃな。
この世のすべてを知る者なんて、いるわけないじゃろう?
物語の黒幕が、もしそうじゃったら。
それこそ魔王や魔神がそうじゃったら。
とっくに世界など滅亡しておる。
それこそ、勇者という不穏分子が生えて来る前に、
摘み取っておろうよ。
自分を無闇に妄信するものなど、
結局のところ、なにもわかっておらんに等しい。
さらに言うなら、この世に絶対の善がないように、絶対の悪もない。
そなたが思うほど……、世界は簡単ではない」
そう老獪に微笑む篠姫さん――篠乃先生は、
やはり三十代にはみえない。
篠姫さんこそ、賢者なのかもしれない、とぼくはふと思った。
自分がわかっていないと断言できる篠姫さんこそ。
正しく智者で……。
――あれ、だとしたら――?
物思いにふけるぼくに、篠姫さんは重ねて言う。
「ただ言えるとすれば、
おそらく、常闇の世界のような場所は無数にあるんじゃろう。
そのなかで、わらわが虹の神になれたのは、まあ偶然じゃろうな。
あるいは、本物の神の御業か」
――まさか……!
「常闇の理を編んだのは、あなたじゃなかった…!?」
その前提が崩れれば、つまり篠姫さんは……!
「……まあ、おおむねハッタリじゃ」
「……なぜ、そんなことを……!」
それじゃあ、まるで。
(わざと、ぼくに倒されたみたいじゃないか…!!)
「……まあ、そなたも大人になったらわかるじゃろう」
そう言って笑んだ篠姫さんは……。
案外、人好きのする、なつっこい目をしていた――。
 




